旧ビッグモーターの中古車買取・販売などの主要事業を引き続くかたちで昨年5月に発足したWECARS(ウィーカーズ)。同社の社名が書かれたプレートをナンバープレートの設置場所に装着し、ナンバープレートを表示させずに走行する車両の目撃情報がSNS上で広がり、道路運送車両法違反ではないかという指摘があがっている。旧ビッグモーターの店舗では同様の行為が広く行われて問題視されていたこともあり、SNS上では「全然学んでない」「その社員がまだいるってこと?」「仕事のやり方なんてそうそう変えられない」といった声が寄せられているが、同社に見解を聞いた。このほか、CM内で「元旦から営業」とPRしている点についても、「全く生まれ変わっていない」「相変わらずブラック企業感」とさまざまな反応が寄せられている。
2023年に自動車保険の保険金水増し請求問題を起こした中古車販売大手の旧ビッグモーター。国土交通省から34の工場について自動車整備の事業を停止する行政処分を受け、金融庁からも保険代理店登録を取り消す処分を受けるなどしたが、影響は他業界まで飛び火。同社に長年にわたり社員を出向させるなど深い関係にあった損害保険ジャパンと親会社のSOMPOホールディングスは24年1月、金融庁から保険業法に基づく業務改善命令を受けた。さらに、損害保険会社が保険代理店に社員を出向させるという長年の業界慣習にもメスが入ることになり、業界団体の日本損害保険協会は昨年9月、損保会社が顧客の獲得や自社のシェアの維持など営業を目的として保険代理店に社員を出向させることを認めないと発表した。
旧ビッグモーターの問題行為
一連の騒動をめぐっては、旧ビッグモーターで広く行われていた問題行為が次々と発覚した。
事の発端は22年、同社が顧客から修理を請け負った車両に故意にゴルフボールを入れた靴下を車体に打ちつけて傷を付けたり、ドライバーで車体に引っかき傷を付けたりして事故の度合いをかさ増しし、損保会社に自動車保険の保険金を水増し請求するという悪質な行為が次々と明るみに出たことだった。批判の強まりを受けて23年1月に特別調査委員会を設置しお詫びコメントを発表したが、その後も積極的にCMを放送し、さらに本部は店舗や工場など現場に対して高いノルマを課し続けていた。
車検を行う整備部門が保険会社に不正請求をするために、顧客から預かった自動車のタイヤにドライバーとネジで穴を空けて自然にパンクしたように見せかける方法を指南する動画を作成。また、バッテリーを新品に交換するとして代金を受け取ったものの、実際には新品に交換していない事例もあった。
背景には、本社から店舗や工場が課される高いノルマがあった。報道によると、ある店舗では修理1台当たりの工賃と部品から得る粗利の合計金額が14万円になるようなノルマや、店舗の営業担当者は買い取りと販売の月間台数5台ずつというノルマが設定されており、達成できないと上司から厳しく叱責されることもあったという。
高いノルマに加え、役員が月1回の頻度で店舗を回り掃除や整理整頓の状況をチェックする「環境整備」が行われ、不備が見つかると店長がその場で降格が命じられるため前日に深夜まで掃除をしたり、グループLINEで幹部が店長に罵詈雑言を浴びせたりすることが日常的に行われていた。
消費者庁は23年10月、22年度に旧ビッグモーターに関する相談が約1500件も寄せられていたと発表したが、同社が提供する撥水加工「ダイヤモンドコーティング」をめぐり、営業担当者がコーティングを望んでいない顧客に対し車の販売は困難だと伝え、顧客から約7万円のコーティング料金を取って販売したものの、コーティングを施さないまま納車した事例もあった(同年10月1日付「FNNプライムオンライン」記事より)。また、トヨタ「クラウン」の最上級クラス「RS Advance」の購入を希望し購入契約の締結と頭金の支払いも済んだ顧客に対し、営業担当者が5段階下のクラスの車を納車しようとしていたこともあった(同年10月5日付「FNNプライムオンライン」記事より)。
さらに、車の購入者が代金の約100万円を現金で支払おうとしたところ、店舗の営業担当者から総支払額は変わらないので1年だけローンを組むよう説得され、結果的に120万円を支払う羽目になったり、新品タイヤなど30万円相当のオプションを無償で付けるのでローンを組むよう言われた客が、約束を反故にされオプション分を有償で契約させられたケースも(同年8月11日付「AUTOCAR JAPAN」記事より)。売却した車について冠水した過去はないにもかかわらず、冠水した跡があるとしてビッグモーターから突然700万円の賠償請求訴訟を起こされたり、店舗で売却のキャンセルを告げると店長から罵声を浴びせられるようなケースもあったという(同年8月11日付「弁護士ドットコムニュース」記事より)。このほかにも、中古車の一括査定サイトでは、登録した顧客のメールアドレスや電話番号などを入手し、その顧客になりすまして勝手に登録を解除する一方で顧客に接触し、他の中古車買取業者との価格競争を回避する「他社切り」という行為まで横行していたという(同年8月9日付「FNN」記事より)。
金融庁は同社への調査の結果として23年11月、
・取締役会を開催していなかった
・利益を生まないという理由で苦情受付コールセンターを閉鎖していた
・会計検査や決算公告を実施していなかった
・保険部による各店舗の保険募集人への指導・教育等の取組を中止していた
・「組織規程」には、保険募集に関する内部監査については営業部門から独立した内部監査室が実施すると規定されているが、内部監査室は設置されていなかった
などと指摘。その上で、以下のように評価していた。
<自己の収入を増やすあるいは高い給与水準を維持するという「動機」、利益拡大を過度に重視する経営姿勢により、利益を上げるためには不正も許容されるという誤った認識を「正当化」させかねないいびつな組織風土>