フィンランド、そしてスウェーデンと北欧の代表的中立国の2カ国がその国是の中立主義を放棄し、北大西洋条約機構(NATO)に加盟した。ロシア軍がウクライナに軍事侵攻したことを受け、中立主義ではロシアの軍事的侵略から国を守れないという判断からのシフトチェンジだ。欧州では中立主義を堅持している国は2カ国となった。アルプスの小国オーストリアとスイスの両国だ。
オーストリアではロシアのウクライナ侵略後、中立主義の堅持について議論が沸いたことがある。中立国だから紛争の地での軍事活動はできないが、地雷除去は人道支援の一環という判断からヴァン・デア・ベレン大統領が外遊先で提案した時、「地雷除去支援は中立主義に違反する」という声が出てきた。野党極右党「自由党」だけではなく、与党「国民党」党首、ネハンマー首相自ら「わが国は中立国だからウクライナでの地雷除去支援はできない」と説明し、大統領の提案をあっさりと却下した。
そのネハンマー首相とタナー国防相は昨年7月1日、欧州の空域防衛システム「スカイシールド」(Skyshield)へのオーストリアの参加への意思表明を発表した時もそうだった。中立国と「スカイシールド」参加は整合するか、という議論が野党を中心に出てきた(「『中立主義』との整合問う2つの試験」2023年7月5日参考)。
「ヨーロッパ・スカイ・シールド・イニシアチブ」(ESSI)はドイツのショルツ首相が2022年8月末に提案したものだ。現在設置されている防護シールドは、基本的にイランからの潜在的な脅威に備えたものだ。例えば、弾道ミサイルとの戦いや、無人機や巡航ミサイルからの防御において欠陥があり、ロシアからの攻撃には対応できない。そのため、新たな空域防衛システムが必要というわけだ。
ただし、国民の大多数が中立主義の堅持を支持している段階では同国の中立主義の放棄、NATOの加盟といったギアチェンジは考えられない。実際、政府も国民もウクライナ戦争に直面しても中立主義を放棄するような動きはほとんど見られない。ある欧州外交官は、「オーストリアでは中立主義は宗教だ。改宗することは難しい」と解説していた。