例えば、重犯罪者が精神病と認められると「責任能力なし」と見なされ、罪が軽くなることがあります。
つまり、もし犯罪者が精神病を偽って、精神科医を騙すことができれば、自分の罪も減刑できてしまうわけです。
そこで精神科医には確かな診断能力が要求されます。
これを踏まえてローゼンハンは「じゃあ、精神病患者のフリをして精神科医を騙せるかどうか試してみよう」との大胆なアイデアを発案します。
これがローゼンハン実験です。
では、アメリカ精神医学界を震撼させたローゼンハン実験の中身を見てみましょう。
精神病のフリをさせた人を精神病院に送り込む
ローゼンハンはまず最初に「精神病患者のフリをして精神病院に入院できるかどうか」を検証しました。
ここでは精神疾患のない至って健康な一般成人8名(男性5名、女性3名、うち男性1名はローゼンハン本人)で実験を行いました。
協力者は大学院生や心理学者、画家や主婦など様々な背景を持つ人たちであり、ローゼンハンは彼らをアメリカ各地に点在する別々の精神病院に送り込みました。
協力者には事前に幻聴があるフリをするよう伝えており、担当医には「ドスンという音が聞こえる」とか「『空虚だ』という声がする」とだけ話すように指示しています。
本名と職業を偽る以外は医師の質問にすべて正直に答え、幻聴の他には何も異常がないことを示しました。
その結果、驚くべきことに、8名全員の疑似患者が「精神障害の疑いあり」として入院が許可されたのです。
具体的には7名が統合失調症、1名が躁うつ病と診断されました。
疑似患者たちには軽い幻聴症状しか起こっていない(本当は幻聴すら起こっていないが)にも関わらず、精神科医たちは重い精神疾患の診断を下したのです。
入院できた場合の次の行動も、ローゼンハンの指導のもと、入念に計画が練られています。