医師として基本的な素養に欠ける

 黒田氏はブログで「新鮮なご遺体で解剖させて頂ける機会、というのは非常に稀で、基本的には日本ではできません」と説明しているが、 医療関係者以外の一般の人々の感覚としても、モラルに欠く行動と思われるが、なぜ医師である人物が、このような行為におよんだと考えられるか。

 医師で特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏はいう。

「この人物は、医師としての基本的な姿勢が間違っている。『古典的プロフェッショナル』の自覚が感じられない。『古典的プロフェッショナル』とは、医師、弁護士、聖職者などに求められる職業規範だ。ギリシャ、ローマ時代以来、長年にわたる議論の末、確立された概念だ。医師の場合、『患者の利益を優先せよ』『全ての知識を患者のために使え』ということだ。医師と患者の間には、大きな情報の非対称が存在するため、医師が患者を騙すのは簡単だ。だからこそ、自己規律が求められる。

 世界の医師は、どうすれば『プロフェッショナル』たり得るか、議論を積み重ねてきた。苦い経験もした。有名なのは、1946年12月から翌年の8月にかけてドイツのニュルンベルクで行われた『ニュルンベルク医師裁判』だ。罪に問われたのは、強制収容所での人体実験と約350万人のドイツ国民を対象とした強制不妊手術を行った23人の医師たちだ。被告の医師たちは『上司に命令された。自分の責任ではない』と無実を主張したが、訴えは認められず、7人が絞首刑となった。

 この裁判では、政府からの命令で個人がとった行動の責任を問えるのかが議論されたが、最終的には医師の職業規範が優先され、極刑となった。医師は、自らが所属する組織の都合より、患者の利益を優先しなければならない。これが、世界の医師たちの自己規律に対する議論だ。医師には強い自己規律が求められる。

 このような背景を知れば、今回の医師の対応が話にならないことがご理解いただけるだろう。献体者は医学の進歩のために、自らの体を差し出した人たちだ。医師は、通常の患者以上に尊重しなければならない。ところが、この医師は、彼らを自らのSNSを盛り上げるために利用した。この医師がどの程度の技量を持つか私は知らない。ただ、医師として基本的な素養に欠ける。医師免許を返納することをお勧めしたい」

(文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医師、医療ガバナンス研究所理事長)

提供元・Business Journal

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