話を中公新書の飯田教授に移すと、気になったのが「刊行にあたり若田部氏に草稿への丁寧なコメントを頂いた」とあります。若田部氏は安倍氏のマクロ経済政策を絶賛した元副総裁(現早大教授)です。飯田氏は、安倍氏が途中で自ら断念したアベノミクノスの賛同者なのでしょうか。
岩田・元副総裁、若田部・副総裁、浜田エール大教授、本田・元静岡大教授(元財務官僚)、高橋洋一氏(同)ら、リフレ派はグループを作り、徒党を組んでいたようです。圧力団体めいたもので動くところをみると、リフレ派は特異な集団でもあるような気がしてきます。
中公の目次をみると「ゼロ金利制約と金融政策、金融政策の経路と非伝統的金融政策、マイナス金利とイールドカーブ・コントロール、日銀当座預金の負債性、一体化する財政・金融政策・・・」など、黒田氏が展開した大規模緩和政策への言及も少なくありません。
現代金融理論(MMT)、物価の財政理論(FYPL)など、経済理論も詳述しており、教科書に使えそうな内容が盛り込まれています。精緻な理論の部分ではなく、分かりやすい部分だけいくつか拾って紹介します。
「貨幣量と物価は密接に関連している」と、飯田氏は指摘しています。マネーサプライを増やすと、物価を上げられる。黒田氏の持論でもあり、異次元緩和ではマネタリー・ベースを2倍にすれば、2年で消費者物価を2%に押し上げ、デフレから脱却できると主張しました。
最近、1、2年物価が上がったのは、海外資源高、円安・ドル高というルートでした。つまり日銀が貨幣量を増やしたルートではなかった。海外要因、輸入インフレであり、黒田・日銀の設計と全く異なりました。
マネーサプライと消費者物価の関係について、飯田氏は2019ー2022年の米コロナ期のグラフを掲載しています。両者は右上がりの曲線を描いています。その因果関係はどうなのでしょうか。
「物価が上がったからマネーの量も増えた」のか「マネーをふやしたから物価が上がったのか」の解明が必要でしょう。しかも、日本ではなく、なぜ米国を例にとったのか。日本では国内緩和を10年やっても物価は上がらず、海外要因によったことを示すグラフが欲しかった。
「黒田氏は就任の際、『期待に働きかける政策』という言い回しが多く使われた」と、飯田氏は指摘します。黒田氏は総裁の去り際に、「期待通りには、デフレマインドが変わらなかった」と言っています。「期待」に期待をかける黒田氏の金融政策は空振りに終わった。
「日銀が債務超過になったとしても、円の価値に何らの影響はでない」、「金融緩和による金利の抑制が金融市場の機能を低下させるといった批判は首肯しかねる」、「金融緩和による低金利が財政規律を弛緩させるという批判は無意味である」、「国債を発行(政府債務の増加)したからといって、将来世代につけを残すことはない」などなど。
通常の財政金融政策上の常識と異なる主張をしています。中央銀行の独立性について、「より限定的な政策の細部に関する独立性に限定すべきだ」などいっています。財政金融政策は、政治経済学的な力学で動くようになってきました。ポピュリズム政治はその典型でしょう。中央銀行の独立性、中立性を維持していかないと、政治的な圧力が勝つことになります。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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