●所定労働時間内の移動時間は労働時間になる 往復の移動時間が労働時間ではないとしたら、所定労働時間内の移動はどうなるのでしょうか?その理論が正しいのであれば、就業時間内に移動した時間は給与控除することになってしまいます。
ただ、出張は会社の業務として行っているため、仮に移動の時間が自由に利用できる時間であったとしても、所定労働時間内の移動時間は給与控除出来ないと考えられています。出張は会社の指示で行っているものだから、そのために労働者が給与控除という不利益を被るのはおかしいというのが共通認識なのです。
例えば、往復の移動時間でも、その移動時間が所定労働時間にかかるような移動の場合は、所定労働時間中については労働時間として扱い給与控除は行わないということになります。
出張は拒否できる?長期の出張や頻繁な出張命令は労働者にとって負担が大きいものです。仕事とはいえ、すべての出張命令に従わなければならないのでしょうか。
出張命令は会社からの業務命令ですので、従わなければならないのが原則です。ただ、業務命令とはいえどんな命令でも許されるわけではありません。違法な出張命令や拒否する正当な理由がある場合は、拒否できる場合があります。
例えば次のようなケースです。
●業務上の必要性がない出張 例えば、自分の業務に全く関係がない、出張先での具体的な業務が指示されていない、不必要に長期の出張など、業務に必要がない出張命令は違法になる可能性があります。嫌がらせ目的でこういった出張命令を出している場合はパワハラに該当する場合もあります。
●「出張しない」ことが契約の条件になっている 雇用契約で「出張しないこと」を約束して入社した場合です。家庭の事情、子育て、病気などで出張が難しい理由はさまざまです。出張しないことが契約の条件になっていたのなら、出張を拒否することは正当な理由にあたります。入社してからのトラブルを避けるためにも出張出来ない事情がある場合は、入社時に会社に理由を説明して合意の上入社しましょう。
●育児中の従業員は出張拒否できる場合がある 育児中の出張は従業員にとっても負担が大きいものです。「育児」は出張を拒否できる正当な理由になるのでしょうか?
育児介護休業法第19条に「深夜業の制限」があります。小学校入学前の子供を養育する従業員が請求した場合は、深夜(22時~5時まで)に労働させてはならないという制度です。この制度は一部の従業員を除いて誰でも申請することができる制度です。
宿泊を伴う出張は深夜の就業となるため、会社はこの「深夜業の制限」を申し出ている従業員には宿泊を伴う出張をさせることができないとされています。
このように、出張を拒否できるケースはいくつかありますが、多くの場合、業務上の必要性がある出張は拒否することが難しいのが現実です。やむを得ない状況が発生して出張が出来ない場合には、会社に事情を伝えて調整を相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ今回解説した出張中の移動時間や残業時間の問題はよく相談を受ける内容です。
出張中は、移動時間も長く残業時間、休日労働と様々な時間があり疑問が生じがちです。ただ、出張であっても会社の仕事という意味では同じです。どの時間が労働時間となるかを考えるにあたっては、「会社の指揮命令下にあるかどうか」がポイントになります。その時間が会社の指揮命令下にあるかどうかを考え、会社の指示で仕事をしている時間は労働時間とみなし適切に処理するようにしましょう。
また、インターネット環境が普及した現在では、出張中だからと言って「労働時間の算定が困難」と言える状況は極めて稀になりつつあります。携帯電話1つあれば移動時間中でも会社の指示を受けて仕事ができる時代です。今後は移動中の時間でも労働時間と判断される事例は増えていくでしょう。
出張中の労働時間や賃金の考え方が今のままで良いか、今一度検討してみることが必要ではないでしょうか。
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桐生 由紀 社会保険労務士 大学卒業後、大手財閥系企業の管理部門業務に従事。第1子出産を機に専業主婦になるが、配偶者の急死により二人の子供を抱えてシングルマザーになる。Authense法律事務所に再就職し、法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引する。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。現在は、弁護士法人でHR部門を統括しつつ、社会保険労務士法人の代表として複数のクライアントを支援している。プライベートでは男子3人の母。 。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年12月18日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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