どのような「社会主義」と「資本主義」の移行か?

大西氏は「社会主義」と「資本主義」の移行を表明されている。ただし、「SocialismとはSocialized Societyのこと」(大西①リプライ)では権力の問題が抜け落ちていて、社会学での「社会化」は生まれてきた子どもが徐々に社会性を身につけるプロセスを指すから、より詳しい説明が求められる。

同じく「CommunismとはEqualized Societyのこと」(大西①リプライ)でも、資本主義も社会主義(共産主義)も格差も不平等も内包しているから、その内容の詰めが欲しい。

子どもを「効用関数」で論じることへの疑問にもリプライがほしい

そしていつでも構わないので、もう一つの疑問点とした子どもを「効用関数」で論じることに対してもリプライしてほしい。誤解なきように追記しておけば、私の問題意識は「マルクスを現代的に再生したい」(大西②リプライ)のではない注6)。

仮にも「人口減少」「家族」「少子化」「子育て支援」などを論じるには、「ホモ・エコノミクス」の人間モデルでは「効用関数」への誘惑が邪魔して、現実的な成果が得られないだろうと危惧したにすぎない。

学問の有効性判断

さらに学問の有効性判断は、「大西②リプライ」で「TPP反対」や「映画マルクス・エンゲルス」を引いて強調された「利益」の有無ではなく、「人口減少」や「家族」に関連する問題解決力のためのパラダイムの優劣の相違による。

そのために現今の社会科学から模索したいことは、「要するに人口減が資本主義で解消されるのかどうか」ではなく、「3000万人の人口減少」に適応した「新しい資本主義」パラダイムの構築であり、その競争にこそ衆知を集める段階にある。

なぜなら、すべての数理経済学者が「各人(親)は子供より自分のほうが大事」(大西②リプライ)と仮定しているとは、社会学ではとても考えられないからである。

注1)併せて、濱田康行(2024)参照。

注2)翌2月12日に、主として濱田論文へのリプライが「要するに人口減が資本主義で解消されるのかどうかという問題②」が掲載された(以下、大西②リプライと略称)。ただ不思議なことに、「大西②リプライ」では、途中から濱田氏ではなく澤村氏が登場するが、この理由は定かではない。

注3)大西氏からの私ども二名へのリプライについて、「星光」氏からのコメントがあり、大西氏とのやり取りが続いている。この「意見交換」=「論争」こそ私どもの狙いでもあったので、今後の広がりに期待するものである。

注4)詳しくは金子(2024b)を参照のこと。大西氏の2120年の総人口予想は3900万人であったが、Dケースであれば、2100年で5100万人となる。その20年後の人口減少の予測は難しい。

注5)このモデルは「経済を取り払った社会を理論的に研究する現代の社会学には、もはや未来がない」(シュトレーク、2016=2017:335)という指摘に触発されたものである。

注6)その意味で、斎藤幸平(2020)の立場にも批判的である(金子、2023)。

【参照文献】

濱田康行,2024,「【経済学の観点から】「『少子化論』に対する『数理マルクス経済学』の限界」アゴラ言論プラットフォーム(1月25日). 金子勇,2023,『社会資本主義』ミネルヴァ書房. 金子勇,2024a,「【社会学の観点から】「『少子化論』に対する『数理マルクス経済学』の限界」アゴラ言論プラットフォーム(1月25日). 金子勇,2024b,「『子育て共同参画社会』から見た『共同養育社会』論」 アゴラ言論プラットフォーム(2月4日). 大西広,2023,『「人口ゼロ」の資本論』講談社. 大西広,2024a,「要するに人口減が資本主義で解消されるのかどうかという問題①」アゴラ言論プラットフォーム(2月11日). 大西広,2024b,「要するに人口減が資本主義で解消されるのかどうかという問題②」アゴラ言論プラットフォーム(2月12日). Parsons,T.,1971,The System of Modern Society, Prentice-Hall,Inc.(=1977 井門富二夫訳『近代社会の体系』至誠堂). パーソンズ・倉田和四生訳,1984,『社会システムの構造と変化』創文社. 斎藤幸平,2020,『人新世の「資本論」』集英社. Streeck,W.,2016,How Will Capitalism End? -Essays on a Falling System,Verso.(=2017 村澤真保呂・信友建志訳『資本主義はどう終わるのか』河出書房新社).

・【社会学の観点】「少子化論」に対する「数理マルクス経済学」の限界① ・【経済学の観点】「少子化論」に対する「数理マルクス経済学」の限界② ・要するに人口減が資本主義で解消されるのかどうかという問題① ・要するに人口減が資本主義で解消されるのかどうかという問題②

 

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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