Lancetの論文で、2020年~2021年の日本の超過死亡数は、約11万人と報告されました。この期間の超過死亡数は、感染研で調べると過少死亡数を引いて、4,560~16,858人でした。なんと9万人強もの差があるのです。
したがって、もしこの論文の計算方法を用いて2021年5月から2023年10月までの2年半の超過死亡数を計算しますと、2020年は特に死亡者が少なく2022年は特に死亡者が多かったため、38万人くらいの数値になっても不思議ではありません。
ただし、この論文の超過死亡数の計算方法には問題があることが複数の専門家から指摘されており、私も以前のネット論考で指摘しました。専門家で話題となった論文ですので、この論文に言及した上で38万人を否定しませんと精緻なファクトチェックとは言えません。
問題点3 感染研が提示する超過死亡はWHOが定義する超過死亡と異なることを理解していない超過死亡という概念は、1973年にWHOによりインフルエンザ発生動向の監視や包括的健康影響評価を目的として提唱されました。WHOは超過死亡数を「平時に予想される死亡数と危機発生時の死亡数の差」と定義しています。そのためWHO、米国CDC、Our World in Dataではパンデミック以前のデータを比較データとして使用しています。一方、感染研は過去5年のデータを比較データとして使用しています。
感染研が提示する超過死亡は、WHOが提唱する超過死亡と同じ指標ではないのです。したがって、今回のファクトチェックにおいては「感染研の超過死亡の検証」としていればよかった のですが、「超過死亡の検証」としてしまったので、問題が生じました。
科学的ファクトチェックは、用語の定義を明確にした上で検証することが極めて大切です。超過死亡という概念を十分に勉強せずにファクトチェックをしますと、今回のような残念な記事となってしまいます。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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