ただし、翌朝に看護師長から、「中村先生、もっと優しく声をかけてくださいね、若い人には。」とおしかりを受けた。しかし、当時血気盛んだった25歳の私は(今でも血気盛んと思われているかもしれないが、当時は今の100倍くらい血気盛んだった)、「まさに人の生死がかかっている時には、新米ではなく、ベテランを外来によこしてください(こんな丁寧な標準語ではなく、過激な大阪弁で)」と反論した。

師長さん、看護師さん、生意気で失礼だったと反省しています。でも、同じ場面に遭遇すれば、やっぱり、「ボケッとするな!」と発すると思う。本気で医療に従事している人には、その気持ちはわかってもらえると信じている。

そして、最大の山場は、患者さんが意識を取り戻した後だ。「・・・さん、わかりますか?血友病はA型ですよね。」との私の問いに、「第9因子です」との答え。全身から汗が吹き出し、すぐに薬剤部に第9因子を依頼する。主治医にも問い合わせたが、第9因子で間違いなかった。手術が終わる頃には血液が凝固していたし、術創からの出血もなかったので、安心していたが、まさに、危機一髪だった。

謎解きは簡単だ。血液がすべて置き換わるくらいに輸血していたので、そこから十分に第9因子が供給されていたのだった。あと5分でも搬送が遅れていれば、輸血が十分に確保されていない病院に運ばれていれば、対応できなかったと思っている。

第9因子が話題に上るたびに、この患者さんを思い出すと共に、救急医療は難しいと思う。救急医療に携わっている医療従事者には頑張ってもらいたいと心から願っている。

編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2022年12月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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