保険とは、滅多に起こらないけれど起こった時に事前準備ではカバーしきれない“経済的リスク”に備えるものだ。しかし最近では保険商品の多様化により、本来の目的とは異なる利用方法が増えている。消費者の選択肢が増えたという見方もできるが、不必要な保険に多額の保険料を支払ってしまう可能性も見過ごせない。ここでは、入ったほうが良い保険、入らなくてもいい、入らないほうが良い保険をどのように見分けたらよいのかを考えてみよう。

日本人は年間どれだけ保険料を払っているか

自身が保険に年間いくら払い込んでいるか、きちんと把握している人はどのくらいいるだろうか。もし、支払った保険料に対し、もらえる保険金が見合わない場合、見直しも視野に入れた方が良いだろう。

生命文化センターの調査によると、世帯ごとの平均年間払込保険料の推移は以下の通りだ。

●世帯年間払込保険料推移(全生保)

2003年 53.3万円
2006年 52.6万円
2009年 45.4万円
2012年 41.6万円
2015年 38.5万円

直近の実態調査では、民間の保険会社の他かんぽ生命(旧簡易保険)、JA、県民共済・生協などすべての機関を含む平均年間払込保険料は、38.5万円となっている。各世帯が支払う保険料は年々減少傾向にあり、毎年約1万円ずつ減ってきている。

2003年と2015年の変化を見ると、12年間で15万円も低下している。人々が支払う保険料が少なくなってきている原因としては、自由化により低価格の商品が増えていることに加え、個人所得の減少や、保険に対する意識の変化が考えられる。

それでも、働き盛り世代の払込保険料はなお高い。全体平均38.5万円と比べ、世帯主年齢別を見ると50~54歳は49.8万円、55~59歳は49.2万円である。この世代は収入がピークを迎え、健康や教育費への不安が増す年齢層だ。若い頃は少額で済んだ保険料が、更新によって大きくアップする時期でもある。

全体では安くなってきているとはいえ、年間38.5万円は月額に換算すると3万2000円だ。家族で入っていることを考えると妥当な金額なのかも知れないが、この金額を10年間払い続ければと385万円、20年経過すると770万円にもなる。満期金が戻ってくるタイプの保険も含まれているとはいえ、保険料を貯蓄に回しておけばいざというときの備えに十分なのではないかと感じてしまう金額である。そこまでして本当に保険に入る必要はあるのだろうか。

保険の優先度は経済的ダメージの大きさで考える

死亡保障、医療保障、がん保険、個人年金保険、どれをとっても不必要な保険などないように見える。大事なのは優先順位だ。重要度の高い保険に優先的に保険料をまわし、余裕がなければ重要度の低い保険は切り捨てる勇気が必要である。

では、どのような保険の優先度が高いのか。それは以下の2点に注目したい。

・ 万が一の時の経済的損失が大きい
・ 公的保障など保険以外の代替手段がない

損失が大きくて代替手段がないリスクに対する保険とは、たとえばどんなものだろうか。代表的なものが「自動車保険」である。自動車事故は被害金額が大きく、数億円になることもある。強制加入の自賠責保険は上限が3000万円で、自身に対する被害は救済されない。自動車保険はまさに正しい保険の使い方だと言えるだろう。

万が一の経済的損失が大きいのに、意外と活用されていないのが「個人賠償責任保険」だ。日常生活の事故やトラブルで他人の身体や所有物に与えてしまった損害を補償する。近年自転車事故によるケガや死亡事故が増えてきたため、少しずつ認知されつつある。公的保障が何もないことを考えると、優先度は高い。

次に考えたいのが「火災保険」だ。住宅も高額であるため、最悪の場合被害額は数千万円に及ぶ。自然災害の場合は公的支援が受けられる可能性があるが、十分にあるかどうかは不透明だ。地震保険に関しては保険料と補償内容のバランスから賛否はあるが、大きな経済的ダメージに備えるという点で検討すべき保険のひとつだろう。

実は高くない生命保険(死亡保障)の優先度

保険の中でも最もポピュラーと考えられている生命保険は、自動車保険や個人賠償責任保険、火災保険に比べると優先度は高くない。経済的ダメージが少ないわけではないが、代替手段がないわけではないという点が異なる。

たとえば一家の稼ぎ手がなくなることに備える死亡保障。公的年金の加入者であれば遺族は遺族年金を受け取ることができる。受給額は条件によってさまざまだが、月収38万円の子供2人世帯であれば月額15万円はもらえる。元の収入をすべて死亡保障でまかなおうとすると高額な保険に加入する必要があるが、遺族年金がもらえて遺族も働ける状態であれば、それほど大きな保険は必要ない。

住宅ローンに入っていると団体信用生命保険(団信)に加入している人も多いだろう。団信は住宅ローンを借りた人が亡くなったり高度障害状態になったりした際に残りの返済を免除されるものである。生命保険の保険金を考える時、団信に入っている人は住宅資金については考える必要がないということである。

すぐに高額なお金が必要になるわけではないという点も大きい。事故や火災による損失はただちに補填が必要だが、家族を失うことですぐに受けるのは精神的ダメージであり、経済的不安は長期的なものになる。大きな不安に対しては大きな保険を考えがちだが、必要なのは経済的ダメージに対する備えであることをおさらいしておきたい。

死亡保障の生命保険はいざという時に大きな支えになるが、他でカバーできる部分については余分な保険を掛ける必要はない。

医療保険は本当に必要か?

医療保険も必要性が高いと考えられている保険だが、死亡保障よりもさらに優先度は低い。なぜなら、医療費については公的保障がしっかりしているからだ。健康保険に入っていると病院の窓口では1割から3割の負担で治療が受けられることは知られている。さらに、高額療養費制度により、月額の自己負担額が一定額を超えない仕組みになっている。上限は年齢や収入によって異なるが、年収400万円程度なら月額8万円くらいだ。

つまり、たとえ100万円の治療費がかかったとしても、3割負担で30万円になり、高額療養費制度で上限がおさえられるため、医療費が月額10万円を超えることはない。その程度であれば貯蓄で十分対応可能であろう。

一方で、医療保険は医療費のすべてをカバーしているわけではない。補償されるのは「手術」と「入院」にかかった費用だ。通院だけでも補償される通院給付金特約を付けることも可能だが、保険料は割高になる。医療保険に月額5000円支払い続けると、10年で60万円になる。医療保険に保険料を払うのであれば、同じ金額を貯蓄に積み立てれば、いざというときに手続きなどしなくてもすぐに使える。

医療保険にメリットを感じるとすると、個室を利用したい場合だろうか。病院で大部屋ではなく個室を希望する場合は「差額ベッド代」が発生する。差額ベッド代は公的医療保険の対象外で、高額療養費にも含まれない。その場合は医療保険の保険金を使うという方法もある。

貯蓄性保険の優先度は低い

満期金や返戻金がない代わりに保険料が安い「掛け捨て型保険」に対し、保険料を積み立てて満期や解約時にお金が戻ってくる保険を「貯蓄型保険」と呼ぶ。代表的なものとして、「終身保険」、「個人年金保険」、「学資保険」、「養老保険」などがある。

なぜ優先度が低いのかと言うと、予測できない経済的ダメージに備えるといった目的から外れるからだ。老後資金や教育資金はいつどのくらい必要になってくるか事前に予測し計画的に対応できる。ムダなわけではないが、保険である必要性が低いのだ。

バブル時代をはじめとする高金利時代には、貯蓄型保険は大変な人気を誇り、実際お得な商品であった。予定利率が5%を超えることも難しくなく、保険に入っているだけでお金が勝手に増えていた時代だ。

しかし超低金利政策が続く現在においては、経済的なメリットはほとんどないと言っていいだろう。利息がほとんど見込めないのに対し、早くに解約したり特約を付けたりすると元本割れすることだけはハッキリしている。

保険ならではの貯蓄の利点を挙げるとすると、自動的に積み立てられて解約のハードルが高いため貯蓄が苦手な人でも貯められるという点であろうか。ただ、他の金融商品にも似たようなものがあるので、比較検討は必須である。

働けなくなるリスクに対する保険

最近注目されている保険商品として、病気やケガで働けなくなった時の所得を補償する保険がある。「所得補償保険」や「就業不能保険」と呼ばれるものだ。個々の補償内容はそれぞれ差異があるが、いずれも働けなくなることに対する保険だ。医療が発達した現代において、現役世代の人がいきなり亡くなることは非常にまれなケースで、どちらかと言うと病気やケガのために働けず収入が絶たれるリスクの方が大きい。

所得を補償する保険の優先度は、公的保障の有無によって決めるのが良い。会社員であれば、病気やケガで働けない場合に全国健康保険協会や健康保険組合等の保険者から療養中の生活保障として、元の賃金の3分の2程度が最長1年6ヵ月間支給される。傷病手当金を受け取れる期間を超えても生活や仕事が制限されている場合は、公的年金から障害年金が支給される。働けなくなるとすぐに無収入になるというわけではないのだ。

ただし、最近増えている個人事業主やフリーランスといった自営業には当てはまらない。自営業者が加入している国民健康保険には傷病手当金がない。社会保険が適用されない非正規雇用の人も同様だ。その場合は損害保険会社が提供する「所得補償保険」や生命保険会社の「就業不能保険」を検討すると良いだろう。

なお、「収入保障保険」も所得補償の保険と誤解されがちなのだが、これは死亡保障の一種である。万が一の死亡保険金は一時金ではなく年金形式で遺族に支払われる。自身の収入減をカバーするものではないので注意を。

保険に「入らない」選択をしても大丈夫では

2015年時点で、個人年金を含む生命保険の世帯加入率は89.2%である。これは各国と比較しても非常に高い。国民性もあるのかもしれないが、本当にそれだけの人に保険が必要なのか再検討してみても良いのではないだろうか。

繰り返すが、保険とは大きな経済的ダメージに対し、他の代替手段がない場合に必要となるものである。下に保険の種類とそれに対応する代替手段を記す。

●保険の種類と対応する公的保障などの代替手段

・ 自動車保険 → 公的保障は自賠責保険のみ
・ 個人賠償責任保険 → 公的保障なし
・ 火災保険・地震保険 → 災害支援の内容はまちまち
・ 死亡保障 → 遺族年金、残った遺族が働く
・ 医療保障・がん保険 → 健康保険、高額療養費制度障害年金、労災保険、貯蓄
・ 所得保障・就業不能保険 → 傷病手当金、障害年金
・ 介護保険 → 公的介護保険、貯蓄
・ 個人年金保険 → 公的年金制度、確定給付年金、確定拠出年金、付加年金

保険があったおかげで大変助かった人が多くいるのも事実だろう。保険そのものを否定するつもりはないが、よく分からないまま不必要な保険に入りっぱなしな人が多いことも事実だ。自身に必要な保険の優先度を見極め、ライフステージごとに見直すことが必要だろう。

文・篠田わかな(フリーライター・ファイナンシャルプランナー)

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