10月に東京地裁に破産手続きの開始を申し立てた一方、12月に代表取締役会長が東京地裁に民事再生法の適用を申請するという異例の事態が生じている船井電機。その同社の破産申し立て側の関係者が、主力事業であるテレビ事業を中国企業に売却する交渉を進めていると報じられている。金融業界関係者は「要は船井の潤沢な現金に目をつけた者が現金を抜いた上で、テレビ事業を中国企業に売り飛ばして船井をもぬけの殻にしようとしている」と指摘する。

 2000年代には液晶テレビ事業で北米市場シェア1位となり、4000億円近い売上高を誇った「世界のフナイ」が、業績悪化により出版社の秀和システムの子会社・秀和システムホールディングス(HD)に買収され上場廃止となったのは2021年のことだった。秀和の上田智一社長が船井電機社長に就任したが、秀和は船井電機を買収する資金のうち180億円を銀行から借り入れで調達する際、船井電機の定期預金を担保にし、船井電機に保証させるかたちにしていた。LBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる手法だが、最終的に担保は銀行に回収されている。23年、秀和は船井電機の持ち株会社として船井電機・ホールディングス(HD)(現FUNAI GROUP)を設立し、同年に船井電機HDは脱毛サロン・ミュゼプラチナムを買収したが、ミュゼプラチナムへの資金援助が原因で船井電機には33億円の簿外債務が発生。さらに船井電機は船井電機HDに多額の貸し付けを行い、焦げ付きが発生していた。そして、ミュゼプラチナムが代金未払いで広告会社に対し抱えていた負債について船井電機HDが連帯保証しており、船井電機の9割の株式を広告会社が仮差し押さえするという事態が発生。これらの結果、船井電機からは秀和による買収後、約300億円の資金が流出した。

 秀和による買収で船井電機の財務は大きく棄損した。買収前の20年度の時点では、船井電機は売上が804億円、営業損益が3億円の赤字、最終損益が1200万円の赤字で、現預金は344億円、純資産は518億円あった。だが、秀和による買収後わずか3年で負債総額は461億円に膨れ上がり、117億円の債務超過に陥った。昨年度の売上高は3年前の約半分の434億円、最終損益は131億円の赤字となった。

 また、船井電機HDは20年度には518億円あった純資産が、21年の秀和システムHDによる買収を経て23年度には202億円にまで減少している。

 混乱が続くなか、10月には取締役の一人で創業家の関係者とみられる人物が準自己破産を申し立てて、東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた。全従業員も即時に解雇されたが、準自己破産の申し立て直前に代表取締役会長に就いていた原田義昭氏(元環境相)は、破産手続き開始の決定の取り消しを申し立て、さらに今月2日には東京地裁に民事再生法の適用を申請し、受理された。

売却交渉自体が効力を持たない可能性も

 そして今回、破産申し立て側の関係者がテレビ事業を中国家電大手の創維集団(スカイワース)に売却する交渉を進めていることが明らかになった。船井電機HDの23年3月期の「事業報告」によれば、同社の売上高818億円のうちテレビ事業である映像機器事業の占める割合は89%に上る。M&Aに詳しい金融業界関係者はいう。

「中国企業への売却の話を聞いて、『あ、なるほど』と納得しました。要は船井電機から吸い取れるだけ現金を吸い上げて、もう吸い上げるものがなくなった段階で最後にテレビ事業を売っぱらって退散するという魂胆でしょう。テレビ事業を売却した後の船井電機には、ほぼ何も残らないため、法人としては消滅するしかありません。事実上、船井電機が中国企業に売り払われることになり、最悪の結末といえるかもしれません。おそらくは全て最初からおおよそ描かれていたストーリーでしょう。百歩譲って船井側にメリットがあるとすれば、テレビ事業の経営権が中国企業に取られるものの、全員ではないとしても従業員の雇用は維持され、いったんは支払われないと通知された未払い分の給与が支払われる可能性が出るという点でしょう。その意味では、全体でみると当初の単なる破産というかたちに比べるとソフトランディングといえるかもしれません。

 ただ、気になるのは、テレビ事業売却の交渉を進めているのが破産申し立て側の関係者という点です。破産の申し立てを行った人物はすでに取締役から外れているとみられ、そもそも交渉を進める権限を有しているのかが疑問です。もし民事再生法に基づく再建を進める意向の原田会長をはじめとする経営陣の了承を取らないまま進めているのだとすれば、交渉自体が効力を持たないものになるかもしれません。そして、おそらくですが船井の現経営陣の了承は取っていないと考えられます」

 別の金融業界関係者はいう。

「破産を申し立てた関係者は当初、なんらかの理由でとにかく早く会社を閉じようと動いていたものの、蓋を開けてみると、閉じるにも税金の支払いや債務の返済などいろいろとお金がかかるのに加え、給与未払いの上で解雇された元従業員から集団訴訟を起こされるリスクなどもあるとわかり、慌ててテレビ事業を売却してキャッシュをつくろうとしているのかもしれません」