合理化の必要性

 現在、全国的に医師不足は深刻であり、美容外科クリニックに多くの若手医師が流出すると、長期的には医療現場のさらなる逼迫につながる可能性がある。そのため、医師の育成に多額の税金が投入されている以上、なんらかの規制が必要との指摘もあるが、医師で特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏はいう。

「若手医師が内科や外科を避け、美容整形を志すことに対して、規範論を振りかざして批判しても問題は解決しない。彼らが美容整形を目指すのは、収入が多く、内科や外科などの病院勤務医より激務ではないからだ。この問題の背景には、我が国が抱える難しい問題がある。それは高齢化、財政難だ。国民皆保険は世界に誇る社会インフラだ。我が国の国民皆保険は、中負担高給付でやってきた。ただ、高齢化が進む我が国で、従来通りの仕組みを維持することは不可能だ。政府は医療費を抑制し、さらに医師数も増やさなかった。我が国の医師数が先進国最低ランクであることは広く知られているが、医学部定員数も同様だ。今後、事態が改善する見通しはない。

 医療費抑制、医師不足の皺寄せを現場が被っている。医師不足はいうまでもない。収入も世間が思うほど、よくはない。医師のアルバイトの給料は、私が医学部を卒業した30年前と変わらないし、『最近は歯科医のように値崩れしている』という医師アルバイト紹介業経営者もいる」

 では、何か有効な対策はあるのか。

「『合理化』することだ。超高齢化が進む我が国で、手術や抗癌剤などを用いた高度医療の需要は減少する。つまり、多くの大学病院や基幹病院は、今後、余ることになる。若手医師が、このような医療機関での勤務を避け、美容整形に進むのは当然だ。需要が減退する分野では、合併による再編が不可欠だ。ところが、このような議論は皆無だ。医療現場は厚労省の統制下にあり、民間主導で動くことは難しい。ところが、厚労省は怠慢を続けている。

 若手医師が内科や外科を避け、美容整形に進むのは、経済的に合理的な対応だ。美容整形が多くの医師を抱えられるのは、自由診療で、価格を自由に決定できるからだ。サービスレベルを向上すれば、価格に転嫁することができる。医師の報酬も高くなる。公定価格が抑制されつづけている保険診療とは対照的だ。美容整形は激しい競争の世界だ。参入障壁に守られた保険診療とは異なる。この領域に進む若手医師が怠惰というわけではない。現状を無視した議論を続けるかぎり、日本の医療の崩壊は止まらない」(上氏)

(文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医師、医療ガバナンス研究所理事長)

提供元・Business Journal

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