出生率の自動的な回復のなぞ
今回の2023年推計では、出生率が23年の1.23まで大きく低下した後、2024年以降に着実に回復するという、やや極端な変動を示している。これについてプレスリリースでは、「コロナ感染拡大以前から見られた出生率の低迷を反映し、短期的にはコロナ感染期における婚姻数減少等の影響を受けて低調に推移」としている。
しかし、肝心なことは、2023年を底にコロナによる出生数減少の反動増が生じる可能性はあるとしても、それを契機に、1.36という長期安定水準にまでトレンド的に回復することは別の問題であり、両者についての明確な根拠が必要である。
もっとも、この出生率回復の要因については、別の場所にヒントが隠されている。それは日本人女性についての出生率の仮定値で、1.29の水準で安定化することになっている。これは人口全体の出生率とは0.07の差に過ぎないが、日本の人口に占める外国人数が2%強に過ぎない現状では、逆算すれば、外国人女性に日本人の倍近い、高い出生率を期待していることになる。
他方で、コロナ前に増えていた外国人労働者の大部分は研修生や留学生等の単身者である。これは日本政府が移民の受け入れに否定的で、家族の呼び寄せを高度人材等に制限していたことがある。この政府の移民政策が大幅に変わることを、将来推計人口に盛り込んで良いのだろうか。外国人に労働力だけでなく、多くの子どもを産むことまで期待するという綱渡りの将来人口推計といえる。
年金財政検証にどう生かすかこの人口推計を最初に活用するのは、社会保障審議会年金部会における5年に一度の年金財政検証である。ここで年金保険料を負担する15-64歳人口と、年金給付の受給者としての65歳以上人口が重要となる。いずれも出生率と死亡率(平均余命)の長期の見通しが必要となる。
ここで人口推計における三つの仮定値があるが、過去の推計値と実績値のかい離を考慮すれば、従来の出生中位・死亡中位の組み合わせではなく、年金財政にもっとも負担のかかる出生低位・死亡低位のケースを「標準シナリオ」として用いるべきであろう。
また、この標準シナリオを前提に、様々な政策効果、例えば、外国人の移民の受け入れを増やすことや、岸田政権の少子化対策の成果で出生率が引き上げられる場合を政策実現ケースとして、希望的観測を排した標準シナリオとは峻別すべきである。
年金財政検証に限らず、明確な政策の変化もなしに、外国人の親だけでなくその子どもの増加も暗黙の前提として、少子高齢化社会への対応が可能となるような幻想をまき散らす、将来推計人口であってはならないといえる。