スイス連邦議会では、議員の10人に1人がスイス国籍の他に外国籍を持つ。この割合は増加傾向にあるが、スイス国民に占める2重国籍者の割合に比べれば、まだ低い。SWI(swissinfo.ch)が最近実施した調査で、2023年秋の連邦議会選挙で選出された上下両議員246人のうち24人が2重国籍を持つことが分かった。その内訳は、国民議会(下院)が19人、全州議会(上院)が5人だ。
同国では2000年代初めには連邦議会に3人しかいなかった2重国籍者は年を追うごとに増えてきた。国民全体で見ても、2重国籍者は増加傾向にある。2010年にはスイス国内に居住する国民の14%だったが、2021年には19%強に増えているのだ。
2重国籍に反対する保守右派「国民党」は「外国人でもある連邦議員が、利益相反に陥り、スイスに不利益をもたらす可能性は排除できない。そこで議員就任時に、議員に外国籍の放棄を義務づける、あるいは連邦への忠誠宣言を求めるべきだ」という内容の意見書を連邦議会に提出した。ちなみに連邦議員は2022年以来、2重国籍申告を義務づけられている。
スイス連邦議会では、2重国籍者は左派に多い。社会民主党(SP/PS)が13人、緑の党(GPS/LesVerts)が3人だ。他方、右派では、急進民主党(FDP/PLR)に3人、2重国籍問題を非難する国民党にも3人いる。連邦議会では、最も多いのはイタリア国籍で13人。次いで、ドイツ、フランス、トルコがそれぞれ3人だ。
最後に、日本の安全問題にもかかわる北朝鮮人の2重国籍所有が増えていることを記しておきたい。2000年1月、イタリアが北朝鮮と国交を樹立したのを皮切りに、欧州連合(EU)加盟国は次々と北朝鮮と外交関係を樹立していった。同時に、欧州には欧州の国籍を有する北朝鮮人が多数生まれてきた。欧州で脱北者数が最も多い英国では、脱北者は政治難民として英国国籍を得る。北国籍はその段階で消滅するが、平壌当局が脱北者の国籍離脱申請に応じることはないから、脱北者は依然、北国籍者といえる。純粋な脱北者の場合は問題がないが、工作員の場合、彼らは欧州の旅券で欧州ばかりか、米国、日本などを自由に出入国できるのだ(「北朝鮮外交官夫人が2重国籍者の時」2016年11月8日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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