ドイツの隣国フランスでは、大統領候補のマリーヌ・ルペン氏の国家主義、ポピュリズムを標榜する極右「国民連合」(ジョルダン・バルデラ党首=RN)が得票率約31.4%(30議席)で、マクロン大統領の与党連合の倍以上の票を獲得した。その直後、マクロン大統領は「欧州議会選の結果を何もなかったようには扱えない」として下院を解散し、今月30日と7月7日に議会選挙を実施すると声明した。メディアの中には、マクロン大統領の決断をリスクと受け取る向きがある。

ちなみに、フランスの下院選(全てが小選挙区)では第1回投票で当選者が出ない場合、1週間後、決選投票が実施される。第1回投票でRN候補者が1位となったとしても、決選投票で国民の反極右運動を盛り上げて結束すれば逆転できる。こんな計算がマクロン氏の早期総選挙の実施の背後にあるのかもしれない。ただ、議会解散決定が冒険であることには変わらない。

ドイツでも早期総選挙を実施すべきだという声が高まってきている。ショルツ政権は任期があと1年半余りあるが、早期解散して国民の信を問うべきだというわけだ。欧州議会選挙の結果を見る限り、3党から成るショルツ政権が早期総選挙で過半数の得票率を獲得することは現時点では考えられない。欧州議会選で断トツの強さを発揮したCDU/CSUも単独政権は難しいので他党との連立となる。

参考までに、ドイツでは過去3回、早期解散、総選挙が実施されたことがある。最初は1972年のブラント政権で、FDPが連立から離脱し、議会での過半数を失った結果、議会での信任投票が行われた。その結果、議会は早期解散され、総選挙となった。選挙ではブラント首相のSPDが大勝し、ブラント政権は安定を取り戻した。2回目は1982年、CDUのコール首相がFDPと連立を樹立したが、信任投票で敗北し、早期解散、総選挙となったが、コール首相のCDU/CSUが大勝した。そして2005年、SPD主導政権でシュレーダー首相は北ライン=ヴェストファーレン州議会選挙でのSPDの敗北を受け、連邦議会で信任投票を経て、ケーラー大統領が連邦議会を解散し、総選挙が行われた。その結果、メルケル党首が率いるCDUが僅差で勝利し、メルケル氏が連邦首相となった。

ドイツでは早期総選挙では解散前の与党側が2勝1敗だ。ショルツ首相には、早期選挙を決断するか、来年秋までの任期を満了後、総選挙を実施するか、決断を迫る圧力が高まってきた。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。