一方、欧州の農業国でもあるフランスでも農業関係者たちが政府の農業政策に抗議してきた。フランス南部で農業関係者が複数の高速道路や幹線道路を封鎖して政府の農業政策に抗議している。仏紙西フランスとTV局フランス・ブルーの報道によると、19日から始まったトゥールーズ広域圏の高速道路A20、A62、A64の封鎖は続いている。また、トラクターやわら俵でいくつかの国道の通行が封鎖されている。

農業関係者たちはまた、牛に発生した動物間出血性疾患(EHD)への政府の援助を主張し、ガブリエル・アタル新首相が彼らの意見に耳を傾けるまで抗議活動を継続するという強硬姿勢を見せている。干ばつが続く地域では農業用ディーゼルの価格、一般的なエネルギーコスト、農家の収入減などがテーマとなっている。

オーストリア国営放送は19日、「抗議活動の現場には簡易トイレ、発電機、食糧が供給され、封鎖がしばらく続く可能性があることが示唆された。農業関係者たちは高速道路の封鎖地点で夜を過ごした」と、フランスの農民一揆の状況をルポしている。

欧州で農業関係者たちの抗議デモが広がってきたことに対し、オーストリア日刊紙スタンダードは19日、「農牧業者は政府からの補助金で潤い、動物たちを虐待しているという風に見られることに関係者は強い不満を感じると共に、若い世代には親代々から継承した農業を継続することを拒否する傾向が出てきている」と記し、問題は単に政府補助金の削減といった経済的な理由だけではないという。

ウクライナは世界の穀倉地だ。そこで生産される小麦などの穀物は世界中で多くの人々の主食となってきた。それがロシア軍のウクライナ侵攻以来、ロシア側がウクライナの穀倉地帯を攻撃し、湾岸都市を封鎖して食糧の輸出を制止してきた。ロシアのプーチン大統領がウクライナ産食糧を武器にしてウクライナ政府に圧力を行使した時、アフリカやアジアなどウクライナ産穀物に依存している国はロシアの政策を批判したのは当然だった(「『食糧』を武器に利用するロシアのテロ」2022年6月3日参考)。

その一方、ロシアとの戦争勃発後、一貫してウクライナを支持してきたポーランドで農民たちがウクライナ産の安価な穀物が市場に出回ることに不満を爆発させたため、ポーランド政府はウクライナ側に苦情を伝達したことはまだ記憶に新しい。

安全保障問題と言えば、多くは軍事的な危機管理の観点から理解するが、国民が日々摂る食糧の確保も安全保障問題だ。世界的に人口増加による食糧需要の増大、気候変動による生産減少など、国内外の様々な要因によって食糧供給は影響を受けるから、国は常に食糧の安定供給に心を配らなくてはならない。国民の貴重な食糧を生産する農業関係者たちの抗議デモの拡大は、国の安全を脅かす深刻な問題と言わざるを得ない。それゆえに、政府と農業関係者の間で建設的な話し合いが行われることを願う。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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