しかし、心筋梗塞で心筋細胞のダメージが大きい場合など、早急に幹細胞治療をすれば、生存の可能性が広がるかもしれないし、その患者さんにとっては「今」しかない。「安全性を確認してから」と言う言葉は、「ジタバタせずに生きるか死ぬか黙って待て」と言うに等しい。

臨床効果を確認する患者数が十分でない希少疾患や時間がない進行がん患者さんに、平然と「効果と安全性の確認を待て」と言う倫理学者は多いが、自分や家族がその立場に置かれても同じ言葉を吐くのかどうか聞いてみたいものだ。

健康な人にとっての「利益とリスクバランス」基準と、時間が限られている患者さんたちの「利益とリスクバランス」基準は違うはずだ。こんなことさえまともに議論できないこの国はおかしい。

裏金問題は小さい問題ではないが、この国が直面している大きな課題に議論を展開して欲しいと願わざるを得ない。台湾の地震対応など見ていると、この国の政治・行政は何をしているのだろうと思いが強くなる。常に有事を想定している国と、平和ボケが続く国の差と言えばそれまでだが。

編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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