安いぶどうに喜ぶ消費者、泣く農家
シャインマスカットの価格が大幅に下落すれば、消費者は喜ぶだろう。手が出しにくかったぶどうが手頃になれば、全体的な消費量も増えて果物離れに歯止めがかかるのではと考える人もいる。
だが、長期的に見てこのトレンドは決して手放しで喜べるものではないと考える。理由の1つ目はブランド価値の毀損である。果物の開発にはとてつもない手間と時間とコストがかかっている。ITのイノベーションと違って、優秀な人がいれば生み出せるというものではなく、気が遠くなるほどの試行錯誤の末に優れた新品種は出るものなのだ。せっかく収益性に優れた品種ができても、あっという間に値崩れしてしまうトレンドが確立すれば開発側、生産側のインセンティブが低下する懸念がある。
もう1つはシャインマスカットが築いてきた「そこそこ高いけど味は抜群」という信頼が崩れてしまうリスクがある。上述した500円と1万円は同じぶどう、同じシャインマスカットと名前がついていてもまったく別のフルーツといっていいほどの違いがある。
スマホでたとえるとAndroidのハイエンドモデルと、激安モデルのような違いだ。Androidスマホはの品質は玉石混交であり、ハイエンドモデルは一部iPhoneを超えるようなスペックのものもあるが、一方で激安モデルは使っていて処理速度が遅かったり、カメラの解像度が低かったりと値段なりの品質だと感じられることもある。同じスマホ、同じAndroidOSというカテゴライズの中でも品質は大きく違う。シャインマスカットの問題点は、スマホと違ってスペック表もなければ製造番号もつけられていないことである。フルーツに詳しいわけではない一般消費者は見分けることは難しい。
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安いシャインマスカットが広がりすぎると、「シャインマスカットはおいしいと話題だけど、実際は大したことはない」というイメージが浸透してしまいかねないだろう。過剰といえるレベルの値崩れが起きることは、開発、生産、消費者全体にネガティブな影響を与えてしまうと考えている。シャインマスカットに「安物ブランド」のようなイメージが広がってしまうことは、喜べないのである。
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