最後まで紛糾した化石燃料をめぐる文言を対立していた双方が受け入れたということは、当然、同床異夢があるからであり、一方が兜を脱いだからではない。これまでの国連交渉は全てこのような形で決着してきた。

例えば8項目の中にはサウジアラビア等の産油国が強調するCCUS技術の導入加速が盛り込まれている。「我々が目指すべきはCO2排出減であり、特定のエネルギー源の排除ではない。CCUSを活用すれば化石燃料を利用しながら排出削減を追求できる」というのが彼らの主張である。

この議論は論理的であり、化石燃料フェーズアウトにこだわるのは手段が目的に優先する議論であろう。さらに8項目の中で導入を加速する技術の中に原子力も含まれている。8項目すべての実施が求められるならばドイツや島嶼国のような反原発国にとって原発への言及は受け入れられないはずだ。そう考えると「8項目はアラカルトメニューだ」というサルマン大臣の解釈は正しい。

サルマン大臣は米国、カナダ、豪州、ノルウェー、英国等を念頭に「化石燃料フェーズアウトに必死になっている国々はなぜ自国の化石燃料生産をフェーズアウトしないのか」と皮肉っている。化石燃料からの移行という合意とは裏腹にインドは石炭生産を2030年までに倍増する計画だ。

同床異夢で合意されたCOPの決定文書でエネルギーの現実が変わるものではない。メディアの大半がCOP28の合意の「歴史的意義」を特筆大書する中で、筆者の目から見て大手メディアで唯一冷静な論調を提示したのはウオールストリートジャーナルだった。2023年12月14日の社説にはこう書かれている。

彼らが合意した文書には、戦争を違法にした1928年締結のケロッグ・ブリアン条約(パリ不戦条約)が持っていた効力と掲げていた理想のすべてが含まれている。合意は「エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却を公正で秩序ある公平なやり方で進め、この重要な10年間で行動を加速させる」ことを求めた。

この「公正な脱却」は定義が示されておらず、政府を法的に拘束していない。それが中国による石炭火力発電所の増設を阻止することも、アラブ首長国連邦(UAE)による石油増産を阻止することもないだろう。石油輸出国機構(OPEC)は2022年から28年の間に石油需要が10.6%増えると予想しているが、今回の合意内容にこの予想を変化させると思われるものは何もない。

この状況認識は環境関係者にとっては不愉快であろうが、きわめて現実的である。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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