プーチン氏は、西側の退廃文化に対する防波堤の役割を演じ、近年、正教会の忠実な息子としての地位を誇示してきた。同時に、莫大な国の資金が教会や修道院の建設に投資され、ソビエト連邦の終焉後はほとんど不可能と考えられていたロシア正教会のルネッサンスに貢献している。
プーチン氏とキリル1世を結ぶ点は、西側文化への拒絶とキーウ大公国の歴史的重要性だ。プーチン氏とキリル1世の同盟は、ロシアのキリスト教が西暦988年にキーウ大公国の洗礼によって誕生したという教会の歴史的物語に基づいている。ベラルーシ、ウクライナ、そしてロシアは、教会法の正規の領土を形成する兄弟民族だ、というわけだ。これはプーチン氏のネオ帝国主義的関心とほぼ一致している。
ロシア正教会の宗教的神話と政治イデオロギーが結合することで「宗教ナショナリズム」が生まれてくる。それがロシアのアイデンティティとなり、西欧文化、グローバリゼーションと闘うという論理が生まれてくるわけだ。エルスナー氏は「戦争を擁護する理由の一つが、ロシアにも蔓延し、教会が啓蒙している反自由主義イデオロギーの影響が考えられる」と説明しているほどだ。
旧約聖書に登場する神は単なる平和至上主義者ではなく、時には、多くの犠牲を払ってもその教えを貫徹してきた戦う神でもあった。歴史では宗教指導者が戦争を使命と受け取り、自身が正しい側にあると信じて戦いを始めるケースが少なからずあった。その結果、宗教の名(神の名)で最悪の蛮行、非情な戦争が行われてきたこともまた事実だ。
エルスナー氏によると、キリル1世やプーチン大統領は戦争を“より高次の使命”と受け取り、善の側に立つロシアが行う戦争は理にかなったものと考えているのだ。エルスナー氏は彼らの論理を「超越的な正当化」と呼んでいる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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