文化的な影響力を測定するのは難しいが、たとえば政治現象を見ると、欧米諸国に芳しくない状況が広がっていることは明らかだ。冷戦終焉後一貫して増え続けていた「民主主義国」の数は、近年、減少に転じた。欧米諸国主導の軍事介入はもちろん、和平努力すらも、失敗か停滞に直面している場合がほとんどである。

もっとも西洋の「没落」というよりは「衰退」であり、かつてほどの影響力はなくなった、という意味である。そしてかつてよりも影響力を高めた諸国からの追い上げにさらされている、ということである。

2021年アフガニスタンからのアメリカの敗走は、「グローバルな対テロ戦争」の一つの暗澹たる帰結を示したのみならず、アメリカの衰退・西洋の衰退を、強く印象づける事件であった。その後、ロシアのウクライナ全面侵攻を見て、欧米諸国は団結して勇敢に戦うウクライナを支援することによって、威信を回復させようとした。しかしそこで得たある種の貯金も、ガザ危機をめぐる混乱で、喪失の危機にさらされている。

こうした状況で、日本外交が考えるべきなのは、現実を受け止めたうえで、なお同盟国・友好国と、よりよき国際秩序を維持発展させていくためにできることを一緒に考える態度だ。

西洋からアジアへ、のような安易な乗り換えは、ありえない。現実的ではない。ただ、いずれにせよ、日本国内では、西洋からアジアへ、といった左派的なスローガンは、すでに勢いを失っているように見える。アジアでは中国の影響力が圧倒的で、日本はもはや主導的な役割を、少なくとも思うようには、発揮できないからだろう。様々な意味で、現代日本はもはや第二次世界大戦時の大日本帝国ではなく、そのようなものになりうる国ではない。

現代日本で目立っているのは、むしろ復古主義的に日本の国力を誇張する極右勢力である。日本の国力が衰退している現実を受け止めず、移民排斥的な傾向にも走る。高齢視聴者に訴える扇動ユーチューバーとその取り巻きの「政党」関係者が、常軌を逸した行動に出ていることが話題を呼んでいる。背景には、日本の衰退と自己の社会的地位の実情を受け入れられない高齢者層がいるようである。

訴訟ネタになる行動に走る層を、特異なSNS界生息高齢者群と考えるとして、その外周にいるのは「西洋の没落」を受け入れられない層である。ガザ危機で、イスラエル政府の大本営発表をそのまま拡散すれば自分も安全保障の専門家になれると信じているような層、あるいは、結局は中東情勢の行方はアメリカが決めるのさ、と呟いていれば自分も安全保障の専門家になった気分に浸れる、と考えているような層である。

超少子高齢化社会とは、時代の趨勢を受け入れられない高齢者が社会を支配し、現役世代をSNSで恫喝し、若者を委縮させる社会のことである。

少なくとも自らの衰退に極めて自覚的な欧米社会では、少子高齢化社会の弊害を防ぐための努力が多々なされている。

その意味では、「西洋の衰退」の自覚なき日本の方が、より危険が大きいかもしれない。

pianoman555/iStock

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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