ゼーホーファー内相(当時)はマーセン長官を呼び、事件の真相を問いただす一方、メルケル大連立政権の社会民主党(SPD)からは長官の辞任を要求する声が高まるなど、マーセン長官の発言は“政権の危機”にまで発展していった。最終的には、マーセン氏はBfV長官のポストを失い、ゼーホーファー内相の顧問として次官級の地位に就いた。マーセン長官自身は、「私はビデオを見た感想を述べただけに過ぎない」と発言し、理解を求めたが無駄だった。移民問題でリベラルな政策を取ってきた16年間のメルケル政権時代、CDU/CSU内の保守派には不満の声が燻ぶっていた。マーセン氏はその一人だったのだろう。
その後、マーセン氏は今年1月、CDU内からの党追放の声もあって、CDUから離脱し、「価値連合」の連邦議長として政治活動を継続していくことになった。そして「価値連合」のメンバーは1月20日、エアフルトで開催した連邦会合で、テューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州の州選挙に間に合うように独自の党の設立を目指すことを決定している。
マーセン氏は「野党になることが目的ではなく、政権を握ることが目的だ。われわれはドイツの政策変更を望んでいる」と強調、AfDとの関係については、「AfDとの協力関係に対して連合政権を築く考えはないが、厳格な境界を設けるつもりもない」と述べ、ある程度はAfDとの接触や協力を許容する可能性があることを示唆している。ただし、具体的な協力形態や範囲については述べていない。
マーセン氏はBfV長官の職を辞して以来、時には反ユダヤ主義、右翼過激派、陰謀論者とみなされる政治的発言で注目を集め、周囲で物議を醸してきた。BfVは現在、元BfV長官のマーセン氏を右翼過激主義者として監視対象としている。それに対し、マーセン氏は「私を監視対象とする如何なる実証的な証拠はない」と反論している。
「価値連合」が新しい保守派政党として発足し、CDU/CSUへのライバルとなるか、AfDとの政策連合を模索する右派政党の道を行くか、ここしばらく注視していかなければならない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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