大きな期待と共に不気味さを併せ持ちながら日進月歩の進化を遂げている合成生物学の分野において、科学界から研究の一時中止が求められている。自然界に存在しない“ミラー生物”が研究所を抜け出すと、致命的な感染症が蔓延する可能性があるというのだ――。
■DNAが“左巻き”のミラーバクテリアとは?
すべての生物のDNAは“右巻き”のヌクレオチドから作られているのだが、驚くべきことに合成生物学の最先端ではまるで鏡に写してコピーしたかのようにDNAが“左巻き”のバクテリアを作り出すことに成功している。これはまさに鏡写しのバクテリアということで“ミラーバクテリア(mirror bacterium)”と呼ばれている。
今のところこのミラーバクテリアには自己複製能力はないのだが、現在の研究が順調に推移すればあと10年ほどで生存可能なミラーバクテリアが誕生するともいわれている。
自然界に存在する分子の鏡像から作られたミラーバクテリアは人間を含む既知のすべての生物の免疫防御をすり抜けることができるため、研究所から自然界に漏洩すると地球上のすべての生物が前例のないリスクにさらされることが、38人の科学者の連名によって「Science」で発表された研究で報告され、緊急警告が発せられている。
ノーベル賞受賞者と、以前にミラー生物の作成を試みた専門家を含む専門家グループの計38人は現在、すべての新しい研究を一時停止するよう呼びかけているのだ。
「合成生物学の可能性を制限したくはないが、ミラーバクテリアの作成はリスクに見合うものではない」とピッツバーグ大学の微生物学者で論文の共著者であるヴォーン・クーパー博士は語る。
共著者でケンブリッジ大学のノーベル賞受賞生物学者グレゴリー・ウィンター教授は「Daily Mail」オンライン版に対し「ミラー生物、特にミラーバクテリアのリスクは、生きている生物が自分たちのミラーバクテリアを“異物”として認識せず、その攻撃から身を守るための自然防御を持たないことです」と説明する。そのためミラーバクテリアは地球上のすべての生命の免疫防御を無力化し、致命的な感染症を引き起こす可能性があるというのだ。
「ミラーバクテリアが多くの生態系で侵入種として行動し、人間を含む植物や動物のかなりの割合に致命的な感染を引き起こすというシナリオを排除することはできません」(研究論文より)
ミラーバクテリアは種に関係なくあらゆる生物に感染することができ、大規模な生態系被害と壊滅的なパンデミックを引き起こす可能性がある。
ミラーバクテリアは生物学的薬物合成や医療用途など、いくつかの側面で期待されているのだが、科学者らはリスクに見合う価値はないと主張し、説得力のある反論が出ない限り、ミラーバクテリアを作ってはならないと結論づけている。
植物病の専門家でケンブリッジ大学セインズベリー研究所のエグゼクティブディレクターでもある共著者のニコラス・タルボット博士は「そのような生物を作るには膨大な労力が必要になるだろうが、私たちはその進歩を止め、これを効果的に管理する方法について組織的で包括的な対話をしなければならない」と提言している。
ミラーバクテリアをはじめとするミラー生物の作成は現状ではまだきわめて難しく、合成分子の作成には膨大な費用がかかり、合成細胞研究の分野における大きな進歩が必要であるということだが、研究の進展に繋がる画期的な技術が開発される可能性もある。
DNAが“左巻き”の不気味過ぎるミラー生物がそう遠くない未来に誕生してしまうのだろうか。それともいったんこの研究が封印されることになるのか。予断を許さない事態がしばらく続きそうだ。
文=仲田しんじ
提供元・TOCANA
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