■地図にコンパスが描かれるようになる
地図で“北”が意識されるようになったのは、船乗りたちの航海で正確な地図が求められるようになったことに関係してくるという。
まずは14世紀から15世紀の地中海航路の探索においてコンパス(方位磁石)が重用されるようになったことが大きく影響しているという。
1300年代にイタリア、スペイン、ポルトガルで製作され始めた、港や海岸線を写実的に描いた航海用の地図である羅針儀海図(らしんぎかいず、portolan chart)を編纂する上で、集められた船乗りたちの観測データの方位がそれまで以上に重要になったのだ。そしてこの当時、航海で使われ始めたコンパスが、いわば航海の必須アイテムになったのである。
それまでは船乗りたちにとって航海の指針はもっぱら北極星の位置であったのだが、コンパスの普及によって雲が厚い夜でも北の方角を容易に判別できるようになった。古い船乗りたちにとってコンパスは北極星の代替物であり、コンパスの針が北極星に引っ張られていると信じている者も多かったということだ。
こうしてコンパスが航海に欠かせないアイテムになったことで、ある意味でごく自然にこの時期に作られる地図にはコンパスのマークが記されるようになったのだ。
コンパスが指し示す北を上にして地図を描くという決まりはなかったのだが、イタリアの地図製作学校などで、地図に記すコンパスの北の方向を山高帽や矢印で表すことが流行ったり、スペイン・マヨルカ島の地図製作者がコンパスを北極星に見立てて描いたりしたことで、次第に地図上の北が意識されるようになったと考えられる。もちろん複数の地図を同時に広げて北の方角を合わせて眺める機会も徐々に増えてきたのだろう。
この時期からすぐに“北が上”という地図が標準化したわけではないものの、こうした経緯によって“北が上”のフォーマットは徐々に形成されていき、16世紀には主流になったことをオルタナティブメディア「Sott.net」の記事で丁寧にその背景まで記している。
今日のいわゆる“世界地図”に我々の世界観は多大な影響を受けていると思うのだが、地球平面協会までとは言わずとも、思考を柔軟に保つためにも地球はさまざまなアングルから眺めることができるのだということを時折思い返してみてもよいのだろう。
文=仲田しんじ
提供元・TOCANA
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