人を雇用するのもシステムを導入するのも同じ支出、投資
働き手側が意識すべきことは何か。
「企業の経営にとっては人を雇用するのもシステムを導入するのも同じ支出、投資として2つを並列にとらえています。善し悪しの問題ではなく、財務的にはそうなるというお話です。これまでは『システムはコストが高い。人を雇ったほうが安い』として導入を見送っていたシステムのコストが大きく下がり、そこに充てていた人材の人件費が上昇するとします。そうすると、人を雇用する代わりにシステムを導入するのは自然な経営判断になります。たとえば、生成AIのChatGPTやLLM(大規模言語モデル)の性能が飛躍的に向上して、それなりに実用性がある形になり始めました。エンジニアやコンサル、ホワイトカラー全般に影響を与えていくでしょう。システムもSaaS等により日進月歩で進んでき、価格競争をしています。こちらは業務運用するオペレーターに影響がでるかもしれません。
ファミリーレストランでは人の代わりに猫型配膳ロボットが配膳をする光景は当たり前になりましたが、AIとロボティクスが現実的な形でサービス化されていくかもしれません。人件費が高騰する一方でシステムの導入コストがどんどん低下していけば、同じような現象が広い領域で進行することはありうると思います。
そうなると、人手不足で高い採用費、人件費、労務管理費を支払い、徐々に社会保険料の負担が増える。しかし、解雇規制が厳しく雇用調整が難しい。それなら人を雇用する代わりに、こうしたシステムを導入するというのは流れとして起こり得る事だと思います。
そして、テック企業にとって大きなコストはシステム費用、人件費、広告宣伝費になります。広告宣伝費は調整できるとして、迅速かつ大幅にサーバ代やシステム利用料金を削減することが難しいとなれば、余剰人員の削減に手をつけることになります。明言はできずとも、ここ数年のコロナバブルというような好景気に過剰に雇用し過ぎて、膨張しすぎた組織のスリム化したいという企業もいるかもしれません。
踏み絵としてフルリモートなど既存の権利、福利厚生を縮小してやんわりとレイオフをするという可能性もありうるかと。もちろんこの手のレイオフは過去の事例をみると、やめて欲しくない人から辞めやすく、そうでもない人が残るという事態になりがちであったりします。法務的なリスクもあるでしょう。ただ、恐らく普通のコーポレート機能をもっている会社ならば事前に検討して織り込んで動くのだろうと思います。
労使のパワーバランスはシーソーゲームであり、力関係の上下が一定期間の間隔で入れ替わり続けるという現実をもう一度再確認したほうがよいかなと。1990年代中頃からリーマンショックを挟んで約20年ほど続いた就職氷河期時代は景気が悪く、労働者より企業のほうが立場が圧倒的に強い時期が続きました。ここ10年ほどの景気回復に人手不足が重なったことで、それが逆転していました。そのためアベノミクスからコロナが落ち着くまでの数年は、職種、業界によってはスキルが未熟な人材でも良い待遇で比較的容易に雇用されており、そうした人材が戦力にならずにマネージャー層が消耗する弊害も目立ち始めています。そして、2023年あたりから需要が落ち着いて、業界や職種、職位によってはダブつきが見られるようになった気がします。
人手不足が深刻だったエンジニアの世界では、人材でも高い報酬で事業会社や大手コンサルティング会社の重要なポジションに採用されてミスマッチが起きるような話を見かけたりします。SIerやSESではエンジニアという肩書なのだけど、殆ど素人に近いジュニアが結構な金額でアサインされてきて問題になったりしています。
結果として、人が足りないのではなく、自分で判断して仕事をやりきる人が足りないのだという結論に至る頃合いなのではないでしょうか。
企業はいつ何時でも制度を大きく変更させる可能性があるということです。『今の勤務先の制度がこの先もずっと変わらない』という事を大前提にし、勤務先企業を過度に期待してしまうと、大きな変更が生じた際に受け身が取れなくなってしまうリスクがあります。結局、損をするのは自分なので、そこは自己責任ということになります。
企業の経営陣は、企業の存続と利益の最大化、顧客や株主への責任を負っています。目的が達成できれば、それが人によるものであってもシステムによるものであってもより最適なほうを選択します。方針は変えるし、最悪レイオフも選択肢として持ちます。相手がどのような目的で、どのようなルールに従って振る舞うかを踏まえて動く必要があります。
また、企業で会社員をしていると、どうしても待遇や労働環境など自分の事に意識が行きがちですが、顧客は誰なのか、自分の報酬は何に対して支払われているのを考えることも重要ではないかと思います。自分の仕事がどれだけの価値を生み出しているか。それは労働市場でどれくらいの価値を持つことができるか。その価値が本当に必要とされるならば自分で自分の居場所を選択できるし、そうでなければそれなりの制限を受け入れるしかない。例えば、フルリモートでも本当に必要とされるならば、それを元に条件交渉をして受け入れ居場所を探す事になります。
企業によるリモートワーク縮小を、どう評価すべきかということを議論する上では、そういう視点も重要ではないでしょうか」(中野氏)
(文=Business Journal編集部、協力=中野仁/AnityA代表)
提供元・Business Journal
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