素案(2月29日時点版)「6. おわりに」

筆者自身も「続・AIと著作権についての文化庁素案を検証する」で指摘したとおり、諸外国の状況も十分検証する必要があるとの意見を提出した。

これについても素案(2月29日時点版)「6. おわりに」に以下の脚注が加わった。

57. AIと著作権に関する検討は、著作権を含む包括的な検討の一部として行われているものを含め、各国において進行中である(本小委員会第3回・資料4「生成AIに関する各国の対応について」及び本小委員会第5回・参考資料5「広島AIプロセス等における著作権関係の記載について」参照)。

この点に関して、米国においてはフェア・ユースとの関係を含むAIと著作権に関する複数の訴訟が進行中であり、また、欧州連合(EU)においては「デジタル単一市場における著作権及び隣接権に関する指令」(DSM指令)においてAI学習データの収集を含むテキスト・データマイニングのための権利制限規定を設けることが加盟国に義務づけられているほか、AIに関する包括的な規制を設け、EU域外の事業者への適用も一部盛り込むAI規則案(AI Act)が立法過程にあることから、今後これらの動向が我が国に及ぼす影響等も踏まえつつ、検討を行うことが必要となると考えられる。

以上、まとめると、「素案(1月23日版)」に対して知財学者やAI関連団体が抱いた踏み込みすぎとの懸念は「素案(2月29日時点版)」でかなり解消された。

法改正を要求している権利者団体にとっては不満な内容かもしれない。しかし、「日本は機械学習パラダイスか?米生成AI訴訟判決は問う!」のとおり、2023年10月16日の法制度小委員会の資料1 で日本新聞協会が紹介している侵害事例は、いずれも米生成AI事業者によるもの。

このため、フェアユースが認められる可能性のある米国の状況を見極めることなく、法改正することは技術力、資金力で米国勢や中国勢にかなわない日本の生成AI事業者を法制度面でも足を引っ張り、米プラットフォーマーを利する、「弱きをくじき」「強きを助ける」、逆効果を招きかねない。文化庁が現時点での法改正には踏み込まなかったのは正解である。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?