AfDは移民・難民問題で徹底した外国人排斥、移民・難民反対で有権者の支持を得て、世論調査では野党第1党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)に次いで第2の支持率を挙げてきたが、6月の欧州議会選を控え、ロシア寄りが指摘され、支持率を落としてきた。そこにクラー議員のスタッフが中国のスパイだった疑いが発覚して、国民のAfDを見る目が厳しくなってきている(「ドイツで中国のスパイ活動が発覚」2024年4月25日参考)。

皮肉にも、選挙戦が候補者の不祥事を有権者に暴露する機会となったわけだ。選挙戦がなければ、メディアから過去の不祥事(浮気問題からハニートラップまで)をバッシングされることはないだろう。選挙に出馬した故に、メディアのバッシングの餌にされ、家庭が崩壊したというケースまで起きている。メディアから過去の不祥事が暴露されることを嫌って、立候補を避ける候補者が増えてきたため、候補者探しが難しくなってきた。

選挙は民主主義の核だ。自由で公平な選挙は議会政治の土台だが、現実の選挙戦は政策論議というより、候補者の粗探し、それに発破をかけるのが第4権力を誇示するメディア、といった流れが主流となり、ここにきてその傾向は加速してきた感じがする。時代を先読みした政策を立案できる候補者が出てこなくなった。メディアは本来、民主主義、自由で公平な選挙を促進するうえで重要な役割があるが、実際は候補者の欠点探しに腐心するあまり、政治の魅力を大きく剃っているのだ。

2024年は「史上最大の選挙イヤー」(英誌エコノミスト)ということもあって、民主主義(Democracy)について論じる記事が目立つが、最近「Emocracy」という言葉がメディアで登場してきた。エモーションに民主主義を付けた造語だ。現在の政治の世界ではこのエモクラシ―が猛威を振るっている。それに大きな役割を果たしているのはここでもメディアだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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