中国吉利汽車グループのプレミアムEVブランドZEEKR(ジーカー)が日本にやってくる。2025年冬。ちょうど1年先あたりに。
中国の自動車産業は目を見張る発展を遂げていて、巨大なコングロマリットと言える企業体制になってきている。日本にいるとネガな情報ばかりが報道されるため、中国に対する偏見が強い人が多い。あるいは、中国を下に見ている人も多いと感じる。
現実は全く正反対。遥かに先進化が進み、自動車産業だけでなく街自体も大きく変貌を遂げている。この10年で渡中のたびに景色が変わっていくことを実感している。電子マネー化はほぼ100%だし、高速道路網やETCの普及、EV普及なども日本より遥かに進んでいる。
そうした変貌は、自動車変革期を象徴しているようにも感じる。新しい価値提供が国全体で起きており、人々も右往左往しているに違いないが、旅行者レベルでの訪中では、立派な先進都市であり、若者の憧れの就職先が自動車産業だというレベルに引き上げられているのも頷ける。
中国にはご存知のようにたくさんのカーメーカーが存在していて、聞いたことのないメーカーも多数あるが、抑えておきたいのは公営系だ。中央企業(国営)が3つあり、一汽汽車、東風汽車、長安汽車で、地方政府系企業も3つ。上海汽車、北京汽車、広州汽車でこの6つのメーカーは公営であり、諸外国と合弁会社を作っている。
この6社にプラスして民間企業があり、ビッグ3がBYD、吉利汽車、長城汽車だ。他にもフォーミュラEのNIOや格安EVで話題になったシャオミなど数えきれないほどあるのは事実。しかしこの9社を中心に中国の自動車産業は活性化していっているというわけだ。
その吉利汽車グループはメルセデス・ベンツの筆頭株主でもあり、ボルボやロータスを子会社として所有している。ブランドもたくさん所有し、Smartもあればプロトンも吉利汽車なのだ。
欧州に行くとLynk&Co(リンクアンドコー)のロゴをよく見ると思う。レンタカーにも多く存在しているが、このLynk & Coは吉利汽車のオリジナルブランドで、量販の高級車ブランドに位置付けている。また大衆モデルにはGeely autoというブランドも存在しているのだ。
その中でプレミアムEVブランドに位置付けられているのが、ZEEKR(ジーカー)だ。トヨタのレクサス的な位置付けなのだろう、Cセグメントからミニバンまで持ち、プラットフォームはAからEセグに対応できるSAEというギガキャストのプラットフォームを持っているのだ。
さて、そのZEEKRは日本に「ZEEKR X」と「ZEEKR 009」の2タイプを国内投入する予定だ。XはボルボEX30とアーキテクチャーを共有し、009は同じくボルボのEM90と共通。一昔前なら「中身はボルボ」という表現をしただろうが、中身はZEEKRだ。
ZEEKRの生産工場では中国国内に3か所ある。杭州湾工場は001、009、ポールスター4を生産し、成都工場はXとEX30を生産。そして梅山工場は007とXを生産している。つまり、他ブランドの混流生産をしているのだ。まるでマグナシュタイヤーをイメージさせる迫力だ。
そのZEEKRは浙江省寧波(ニンポー)にR&Dがあり、そこにはさまざまな国のエンジニアがいる。500名のデザインVおl1スタッフがいて、30カ国の人が集まっているという。さらにスウェーデンのイエテボリにデザインスタジオがあり、そこと寧波でVRゴーグルを使い、自分のアバターを作りスウェーデンと繋いでデザインを進めていくという。
そのデザインの取りまとめをしているのが、シュテファン・ジーラフで、アウディやベントレーなどでデザインしていた人だ。2021年にZEEKR最初のモデル001が発売され、22万台の販売実績を積み上げている。このシューティングブレークデザインが成功し、ZEEKRは急激な成長を遂げていくのだ。
2021年にスタートしたばかりのZEEKRは2023年からグローバル販売を始め、2025年に日本にやってくる。ZEEKRはすでに34万台を販売し、EV発火事故ゼロを謳い、高い安全性も強調している。
さて、日本に導入するZEEKR XはボルボEX30と同じアーキテクチャーなので、イメージもつかみやすいと思うが、EX30はメーターパネルなどがなく、センターディスプレイひとつに集約されている。しかしこのXのメーターディスプレイは小さめのものがステアリングコラムの上に設置され、センターディスプレイと合わせて2つのディズプレイがある。
このセンターディスプレイは助手席の前までスライドするという。それはカラオケ用のディスプレイだと。中国人はカラオケが大好きだそうで、クルマに求める性能は車内で何ができるか?というニーズだという。このあたりは日本とは異なるニーズでもあり、カラオケが可能という機能は日本人の琴線には触れないかもしれない。
そのZEEKR XはCセグメントのコンパクトSUVで、サーキットで試乗をした。乗り心地もよく、最初のロールはやや大きめに動くが、ある程度ロールしたところでロールは止まり、踏ん張ってくる。初期のロールが大きいのは、ゆったりとした乗り心地を作るためと想像でき、車格からすれば当然の味付けと言える。
このXは日本導入時には右ハンドル仕様に変更して導入するという。おそらくオーストラリアをメインターゲットにしていると想像している。オーストラリアはヒョンデのEVが成功を収めており、左ハンドルでは通行できないルールもあるので、右ハンドルを生産しているのだ。
Xのインテリアはシンプルそのもので、ステアリング上のスイッチも左右にひとつずつというシンプルさ。サーキットを2周しただけの試乗だったので、使い勝手がいいのか悪いのかはコメントできないが、シンプリストが流行っている現在、デザイン・トレンドはしっかり抑えているというわけだ。
そして、もう一台のZEEKR 009はミニバンだ。アルファードに対抗する位置付けのEVで、プレミアムブランドにふさわしい豪華さを持っている。じつは、今回の取材で上海から杭州エリアを移動したが、その際の移動に使ったのがこの009だった。
助手席に座って市街地を移動したときに、発見したのだが高徳マップで、中国ではGoogleが使えないため、高徳マップ使っていた。高徳には信号が変わるタイミングが残秒数として表示され、オービスの位置情報もはっきりと表示されていたのだ。地図データがHDマップ=高精度3Dマップかどうかは確認できなかったが、009にはLiDARも搭載しており、法律が許せばOTAでレベル3に対応すると説明していたため、HDマップの可能性が高い。
その009の3列目もゆったりとした広さがあり、乗り心地も良い。EVだから当然静粛性は高く、ドライバーと3列目との会話も全く問題ない。装備類も日本車ミニバンを研究したのだろう、ミニバンにある機能はほぼ全て網羅されており、使い勝手も良い。
こちらもサーキットでドライブしてみたが、2.7トンの車重は流石に重く、ブレーキが厳しくなるのでゆったりと走行してみた。こうした多人数乗車が可能なミニバンでは全席での乗り心地と会話明瞭度が重要になる。
そして乗り心地では地面からの突き上げや、妙な振動も起きやすいものだが、そうした不満点は見当たらなかった。もっともサーキットは路面コンディションが良いため、正しく評価できているのかは不明だ。
ちなみにこの009には4人乗りの「クワンド」もあった。これはレクサスLMと同様の仕様で43インチのモニターを装備していた。残念ながらこのクワンドは今のところ日本への導入は予定していないという。
今回試乗したサーキットは浙江省にある吉利汽車グループが所有する4.015kmのサーキットで、車両開発にも使用する一方、ブランパンGTレースを過去に開催している。FIAのレベル2のサーキットという本格的なレベルで、SUGOよりはコース幅は広く、アップダウンもあり、走って楽しい攻めがいのあるレイアウトのサーキットだった。
提供・AUTO PROVE
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