台北で開催された夏の学会に参加する予定だったが、台北を台風が直撃したために、オンラインで講演することになった。しかし、種々の案件が積み残しになっていたので、先週の半ばに1年ぶりに台北を訪れた。
私のかつての部下が薬学部長となった台北医科大学の薬学部の学生に「私の人生を語る」講演を行った。医学分野での研究に携わる者は、名誉欲や金銭欲、単なる自分の知的好奇心のためではなく、世のため、患者のために何ができるのかを考える人生を送ってほしいと伝えた。
伝わったかどうかはわからないが、少しでも感じてくれたことがあれば嬉しい。講義が終わったあとで、「Thank you!」と言ってくれた学生たちの目が輝いているように感じたのは、単なる自己満足か?
翌日は、10人以上の修士課程の学生の発表を聞いてアドバイスをした。初めて台湾を訪れた30年近く前と比べて、彼らの英語能力は格段に上達した。今月下旬に大阪にポスドクとして留学してくる研究者など、驚くレベルの英語力だ。もちろん、サイエンスのレベルは高くなっている。質問に対しても、しっかりとした回答をしてくる。
日本では政治ショーの影響か、質問とまったく違った方向の回答をしてはぐらかそうとする部下たちが多いので、彼らと質疑をしていて清々しい気持ちになった。
その後、医学部で「AIホスピタル」の講演をしたが、台北医科大学では電子カルテを英語で記載しているため、デジタル化や3病院のデータベースが進んでいると聞いて驚いた。
日本が国際水準で闘うためには、英語化が必須だと思うが、中途半端な日本の教育では難しい。日本癌学会では発表の英語化を進めたが、英語のセッションは聴衆が少ないので、方針が後退している。目先のことしか考えられない幹部クラスが国の将来を危うくしているのは、学会でも、霞が関でも、永田町でも同じだ。
「坂の上の雲」を目指すどころが、「坂の下のドブ」に転げ落ちようとしているにもかかわらず、こんな危機意識でいいのかと思うほど日本病は深刻だ。日本病に冒された世代を飛び越して、世界観を持った若者たちを登用してこの国を変えていくことが必要だ。ちなみに台北医科大学薬学部長となった私の部下は、2007年に英国オックスフォード大学で博士号を取った40歳代半ばだ。