「歓喜の歌」が初演された後、人類は第1次、第2次の世界大戦を経験した。そして疫病で数百万人が死に、アフリカ大陸では飢えが席巻している。「歓喜の歌」は年末の風物詩として、コンサート会場では鳴り響くが、コンサート会場を一歩後にしたら、至る所で涙と悲しみが溢れている世界だ。

現実の世界は歓喜には満ちていない。それだけに、人は「歓喜の歌」を必要とするのかもしれない。リヒャルト・ワーグナーが「未来の芸術という人類の福音」と賞賛した「歓喜の歌」の最初の節を紹介する。

「喜びよ、美しい神の火花、エリュシオンの娘よ、我らは火に酔いしれて踏み入る、天よ、貴方の神聖なる聖域に!貴方の魔法は再び結びつける、時流が厳しく分けたものを;全ての人々は兄弟となる、貴方の優しい翼が留まるところに」 (ドイツ語の原文では、Freude, schoner Gotterfunken,Tochter aus Elysium,Wir betreten feuertrunken,Himmlische, dein Heiligtum!Deine Zauber binden wieder,Was die Mode streng geteilt;Alle Menschen werden Bruder,Wo dein sanfter Flugel weilt.)

2020年はベートーヴェン生誕250周年だったが、中国武漢発の新型コロナウイルスが欧州で感染拡大していたために欧州各地で計画されていた記念イベントやコンサートは開催されなかった。ウィーンでも交響曲第9「歓喜の歌」を楽友協会やコンサートハウスで聞くことはできなかったが、「歓喜の歌」初演200年の今年5月はオーストリア各地でさまざまな記念イベントが開催中だ。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、ベルリンの劇場博物館と国立図書館と共にこの記念日を祝い、歴史的なオリジナルの楽譜の一部を展示している。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年5月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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