黒田総裁の「致命的な思いあがり」
もう一つの黒田氏の失敗は、日銀がマネタリーベースを操作して経済を動かせるというポパー的な社会工学だった。これはエリートがあらかじめ正しい目的を知っていて社会をコントロールできるという思想だが、ポパーの友人ハイエクはこれを社会主義と同じ「致命的な思いあがり」だと批判した。
社会主義はエリートが計画経済で成長を実現できると考えたが、実際にできたのはスターリン官僚による独裁体制だった。社会主義というパラダイムを否定するパラダイムを認めない体制は、必然的に腐敗するのだ。
ケインズ以来のマクロ経済政策は、財政・金融政策でエリートが経済を支配する社会主義だった。彼らは失業が増えたら財政支出を増やし、インフレになったら金利を上げる社会工学で経済が成長すると考えていた。
それを30年続けた日本の一人当たりGDPはG7で最低になり、国民負担率は50%に近づいている。日銀の供給したチープマネーは大企業の海外投資に回り、中小企業のゾンビ救済にあてられたからだ。
官僚が高齢者の既得権を守った結果、毎年数十兆円の所得が現役世代から移転され、過剰貯蓄として死蔵されている。これが日本経済の成長できない大きな原因である。
30年前に社会主義が崩壊したとき、人々は資本主義の勝利は自明だと考えたが、そうではなかった。エリートはつねに社会主義で大衆を支配しようとし、大衆もバラマキを求める。地獄への道は官僚の善意で舗装されているのだ。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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