植田日銀総裁は22日、「デフレではなく、インフレの状態である」と発言しました。「インフレだから株価も上がる」といいたかったのか。「インフレだから金融政策を正常化していく」と言いたかったのか。両様に解釈できるように語ったのか。

ではどうするのか。黒田・前総裁の「消費者物価2%が目標」に始まり、「今はコストプッシュ型の物価上昇」→「基調的な物価動向をみる」→「デフレでない状態になった」→「賃金と物価の好循環を待つ」→「インフレの状態になった」と、総裁は言葉の綱渡りを続けています。政策判断のための時間稼ぎをしています。

恐らく、日銀総裁にとっては、動こうにも動きにくい状態こそ、居心地がいいに違いありません。株価は23年初は2万5千円、24年初からは5800円高の3万9千円と急ピッチの高騰です。その結果、日銀が保有するETF(上場投資信託)の時価は67兆円(簿価は37兆円)で、含み益は30兆円です。就任当時は、こんな株高を想定していなかったでしょう。

植田総裁は「今後、金利が1%上昇すると、日銀が保有する国債の評価損は40兆円になる」とも、国会で発言しています。「国債の評価損が40兆円、株式の含み益が30兆円」で差し引き10兆円のマイナスです。「株高歓迎、あと1歩か2歩」と思っているのかもしれません。

「株価が続騰すれば、日銀の財務危機はなんとかしのげるかもしれない」と、期待し始めた違いない。もっとも保有株の含み益があっても、大量に売れば、相場が崩れ含み益が減る。含み益を実現するためには、売却のタイミング、相場状況の見極めという難しい判断が必要です。

日銀は上場株の7%を保有し、配当所得は年8千万円と推定されています。大量の保有株(時価67兆円)、大量の国債保有(500兆円)をどうするのか。「史上最高値」を言い切るためには、日銀保有株を手離し、国債購入を減らし、日銀が過度の市場介入を止め、マヒしている市場機能を正常化しなければなりません。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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