ちなみに、世論調査では、ルーマニア国民の大多数は西側指向で、親ロシアに批判的な傾向が強い。それにもかかわらず、選挙で極右政党が大きく票を集めたのは、与党PSD内で横行する腐敗への国民の抗議票がAURらに流れたからではないか、と受け取られている。
同国では先月24日、大統領選が実施されたばかりだ。大統領選の結果は国内だけでなく欧州全体でも波紋を広げた。泡沫候補者と見なされてきた親ロシア派の右翼ポピュリスト、カリン・ジョルジェスク氏が首位となり、決選投票に進出したからだ。その背景には、ロシアの支援を受けた可能性のある集中的なTikTokキャンペーンがあったという。国の安全保障に関する国防最高評議会は先月28日、「選挙プロセスの正当性に影響を与えるサイバー攻撃があった」と述べている。
大統領選で敗北した候補者たちが選挙結果に異議申し立てている。それを受け、選管当局が先月29日、憲法裁判所の命令を受け、票の再集計を始めた。予定では今月8日、ジョルジェスク氏と第2位のUSR所属のエレナ・ラスコーニ氏との間で決選投票が実施される。
大統領選の決戦投票でジョルジェスク氏が勝利すれば、右派ポピュリスト陣営の政治家に新政権組閣を任せる可能性が考えられる一方、ラスコーニ氏が当選すれば、親欧州派の政治家が選ばれる可能性が出てくる。ルーマニア憲法では、国家元首には政府形成を任命する政治家を選ぶ権限がある。
なお、PSD主導政権はこれまで欧州連合(EU)のウクライナ政策を支持してきた。EUや北大西洋条約機構(NATO)にとって、ルーマニアは信頼できるパートナーと見なされてきた。
しかし、ジョルジェスク氏のような親ロシア派が軍最高司令官や防衛評議会議長の役割を担う大統領に選出された場合、対ウクライナ政策にも大きな変化が出てくることは必至だ。ルーマニアはNATO東側防衛線の重要な一部であり、ウクライナへの軍事支援の多くはルーマニア経由だ。これまでの政策からの転換はEUやNATOにとって大きな打撃となることが予想される。