ジェネリック問題の本質は厚労省の失政

 国は医療費抑制策の一環として後発薬の普及を進めている。10月からは、処方箋薬において後発薬がある先発医薬品を希望した場合は、一定の基準を満たす先発薬では後発薬との差額の4分の1が保険適用されなくなり、その分が自費負担となる。事実上の値上げと受け取られているが、厚労省は2029年度末までに後発薬の普及を金額ベースで65%以上、数量ベースで80%以上(全都道府県)とする目標を掲げている。この国の方針は正しいのか。

 医師で特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏はいう。

「ジェネリックメーカーの不正が相次いでいる。現時点で流通しているジェネリックの大部分は問題ないのだろうが、多くの国民がジェネリックに不信感を抱いているだろう。なぜ、こんなことになってしまったのだろう。私は、最大の問題は厚労省の『護送船団方式』と考えている。日本のジェネリックメーカーの特徴は、規模が小さいことだ。大手の東和薬品、サワイグループHDの2023年度の売上は、2279億円、1769億円だ。サンド(スイス、96億ドル)やテバ(イスラエル、87億ドル)の足元にも及ばない。我が国では、医療費を抑制したい政府が2007年6月に『経済財政改革の基本方針2007』のなかにジェネリックの数値目標値を盛り込み、普及を後押しした。同年度の東和薬品、沢井製薬の売上は315億円、376億円にすぎず、16年間で7.2倍、4.7倍に売上を伸ばしたが、いまだにこの状況だ。

 ジェネリックは特許で守られない。先発品と比べて、メーカーの参入障壁は格段に低い。メーカー間で自由競争が繰り広げられ、価格は下がり、規模の経済が働くようになる。まさに世界のジェネリック業界で起こっていることだ。日本は異様だ。小規模のメーカーがやってこれたのは、厚労省が薬価を統制し、護送船団方式で守ってきたからだ。日本のジェネリックの価格は高い。降圧剤ノルバスクの場合、米国では先発品から97%値下げされたジェネリックが流通しているが、日本の場合、69%にすぎない。高脂血症治療薬リピトールの場合、米日の値下げ幅は97%と70%だ。

 2007年以降、ジェネリックメーカーは『我が世の春』を謳歌してきたが、近年、状況は悪化している。それは、厚労省がジェネリックの価格の抑制に転じたからだ。ジェネリックは、市販されると最低薬価の一錠5.9円に達するまで一律に引き下げられる。この値段では、多くは赤字になる。流通しているジェネリックの約3割が赤字だ。ジェネリックメーカーは赤字の医薬品の販売を止めたいが、厚労省の方針で不採算を理由に撤退することは認められていない。この状況では、ジェネリックメーカーの経営は悪化を続けるしかない。

 困り果てたジェネリックメーカーは、生き残りのために不正に手を染めた。製造手順を簡略化し、虚偽の記録を作成することでコストダウンをはかったのだ。ジェネリックの品質劣化が、やがて顕在化するだろう。国民の健康被害が生じるはずだ。どうすればいいだろう。低価格で、高品質のジェネリックを流通させるためには、国産にとらわれることなく、国際分業に協力すべきだ。つまり、外資系ジェネリックメーカーを受け入れるしかない。その際、問題となるのは、日本独自の規制だ。薬の包装や印字など、海外から見れば『オーバースペック』な要件を厚労省が求めている。

 ジェネリック問題の本質は、厚労省の失政だ。彼らが当事者意識を持ち、動かなければならない。ジェネリックメーカーを批判しても、事態は改善しない」

(文=Business Journal編集部、協力=上昌広/医師、医療ガバナンス研究所理事長)

提供元・Business Journal

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