現在アメリカでは、バイデン政権(連邦政府)とテキサス州の間で、不法移民への対応に関して対立が続いており、大きな問題となっています。
米政府「テキサス州を追及」 移民協議でメキシコと合意
先日1月24日、テキサス州のグレッグ・アボット知事は、バイデン政権側の主張を認める最高裁の判決を拒否する、驚くべき声明を発表しました。
25人の共和党知事は共同声明を発表し、アボット知事の主張支持を表明しています。
この問題は単に移民問題というだけでなく、「連邦政府と州政府の関係、ひいては個人と政府との関係」「憲法」「抵抗権」の問題を含んでいます。
これらは自主独立・地方自治に関係し、自由主義にとって非常に重要です。
はじめに、この一連の出来事を時系列で説明します。
その後に、アメリカの自由主義系シンクタンク「ミーゼス研究所」のHPに掲載の米国の不法移民を巡る対立問題についての記事を紹介します。
1. テキサス州と連邦政府(バイデン政権)の不法移民を巡る事件の経緯不法移民流入を阻止するための国境のワイヤーについては、複数の裁判が行われており複雑な経緯ですが、「国境にワイヤーを設置し、不法移民の流入を止めたいテキサス州」と、「国境のワイヤーを撤去したい連邦政府(バイデン政権)」との対立構造です。
1月22日に最高裁が、国境警備隊(バイデン政権側)の立ち入りとワイヤー撤去を認める判決を出しました。
テキサスはこれを拒否する声明を発表します。そして、25人の共和党知事がテキサス支持を表明しています。
(経緯のまとめです)
経緯の詳細は以下になります。
2021年1月のバイデン政権発足から2023年12月までに、600万人以上の不法移民が越境したが、その約58パーセントは、テキサス州付近からでした。
2021年3月、テキサス州グレッグ・アボット知事※1は、州レベルでテキサス州兵、テキサス州公安局(DPS)、その他の法執行機関の要員を投入し、国境の警備を強化する「ローンスター作戦」を開始しました。
※1 グレッグ・アボット 第48代テキサス州知事。共和党。 2002年から2015年まで第50代テキサス州司法長官を務めていた。
連邦政府(バイデン政権)の米国国境警備隊※2とテキサス州当局の間には、当初から対立がありました。
※2 米国国境警備隊(USBP)は、米国税関・国境警備局(CBP)傘下の連邦法執行機関であり、米国の国境警備を担当している。
2023年秋までに、テキサス州兵はイーグル・パス付近の国境に約7万巻のコンチェルティーナ・ワイヤーを設置しました。
米国国境警備隊はそのことに憤慨し、2023年9月に早くもこのワイヤーを切断し始めました。
10月24日、テキサス州は、国境警備隊にワイヤーの切断をやめさせるよう連邦裁判所に提訴しました。
10月27日、テキサス州の司法長官は、国境警備隊によるワイヤーの撤去を停止させるため、一時的拘束命令を求める緊急動議を提出し、裁判所は10月30日に国境警備隊にこれ以上ワイヤーを撤去するのを止めるよう、一時的禁止命令を認めました。
11月29日、連邦地裁はテキサス州側の一時的差し止め命令を認めない判決を下しました。
テキサス州は翌日、連邦第5巡回区控訴裁判所※3に控訴しました。
同裁判所は連邦地裁の命令に対する緊急停止を認め、12月19日、国境警備隊に対し、医療上の緊急事態を除き、これ以上のワイヤーの破壊を差し止めました。
※3 合衆国控訴裁判所は、アメリカ合衆国連邦裁判所における控訴裁判所である。12の巡回区(Circuit)に1つずつ設置されているほか、知財事件などを扱う連邦巡回区控訴裁判所がある。
第1~11巡回区控訴裁判所及びD.C.巡回区控訴裁判所は、地域によって管轄が定まる。他方、連邦巡回区控訴裁判所は、アメリカ合衆国全域における特許や関税などの特定の分野の事件のみを管轄する。
2024年1月2日、エリザベス・プレロガー米国訟務長官※4は、最高裁に上告中の差し止め命令を取り消すよう申請しました。
※4 米国訟務長官は、連邦最高裁判所で連邦政府が当事者となっている訴訟に際し、政府のために弁論を行う官職。アメリカ合衆国司法省所属の公務員である。
訟務長官は大統領によって指名され、上院によって承認される。訟務長官は法律家と政治家の中間的な存在であり、裁判官ではない弁護士の最も高い地位だと一般には考えられている。
1月10日、テキサス州がリオ・グランデ川に面したイーグル・パス市所有のシェルビー・パークを差し押さえました。
テキサス州兵は公園の周囲にフェンスを張り、ボート乗り場を含む公園施設への国境警備隊の立ち入りを拒否しました。
1月12日、プレロガー米国訟務長官は、テキサス州によるシェアルビー・パークの接収とフェンスの建設によって、国境警備隊が川の一部に立ち入ることができなくなり、今後極めて重要になるシェルビー・パークのボート乗り場へのアクセスを拒否されたと主張する補足書を最高裁に提出しました。