これは大量の若者層を吸収する経済政策をとらなければ社会不安が訪れるという深刻な圧力を、各国の政府に課している。同時に、豊かさを達成した後に人口を減少させている(移民を受け入れてようやく人口維持している)旧来の先進国への強烈な移民圧力にもなっている。容易には解決策が見つからない構造的な問題だ。人口増加しているイスラム圏が、それによって単純に国力・影響力を高める、と断言することはできない。しかしだからと言って、急激な成長を遂げているイスラム圏諸国の実力を過小評価するのは、危険すぎる。人口増加しているイスラム圏諸国は、いずれも高い経済成長を見せている。人口の増加に応じて、国力も増加していくと仮定することが、まずは自然な想定である。
日本は政治難民の受け入れには厳しいが、経済移民については実態として門戸を開く政策をとっている。人口動態から計算されざるを得ない政策だろう。東南アジア諸国だけではない。本年4月に南アジアのイスラム国(パレスチナを国家承認し、イスラエルを国家承認していない)であるバングラデシュのハシナ首相が来日した際には、日本側は労働力としてのバングラデシュ人の受け入れに魅力を感じている旨を表明している。
外交にバランスが必要であることは、言うまでもない。しかしそのバランス感覚は、当然、具体的な問題に応じて、そして時代の流れに応じて、変化していくはずだ。そこを見誤るならば、曖昧どころか、錯綜した外交政策に陥っていくだけだろう。
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戦争の地政学 (講談社現代新書) 篠田 英朗
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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