ドイツで徴兵制の再導入についての議論がメディアで報じられてきた。その切っ掛けは、ピストリウス国防相のスウェ―デン、ノルウェー、フィンランドの北欧訪問だ。同国防相はこれまで「北欧をモデルとした徴兵制を検討している」と発言してきたこともあって、「ドイツの徴兵制再導入」がにわかに現実味を帯びてきたわけだ。

オースティン米国防長官の訪問を受けたピストリウス独国防相(2023年01月19日ドイツ連邦国防省公式サイトから)

ドイツでは徴兵制を2011年まで導入してきた。第2次世界大戦終了後、連邦軍は職業軍人と志願兵で構成されたが、兵士が集まらないこと、旧ソ連・東欧共産ブロックとの対立もあって1956年から徴兵制を施行、18歳以上の男子に9カ月間の兵役の義務を課してきた。兵役拒否は可能で、その場合、病院や介護施設での社会福祉活動が義務付けられた。Zivildienstといわれる兵役代替服務(民間奉仕義務)だ。兵役義務拒否の理由としては、健康問題や本人の宗教的、良心問題などが出てきた。

その徴兵制は2011年、廃止された。徴兵の代行だった社会奉仕活動制度もなくなった。冷戦時代が終了し、旧東独と旧西独の再統一もあって、連邦軍は職業軍人と志願兵に戻り、連邦軍の総兵力は約25万人から約18万5000人に減少されていった。旧ソ連・東欧共産政権が崩壊していく中、ドイツを含む欧州諸国は軍事費を縮小する一方、社会福祉関連予算を広げていった。

その流れが大きく変わったのはやはりロシア軍のウクライナ侵攻だ。欧州大陸での本格的な戦争の勃発にドイツ国民も深刻な衝撃を受けた。ショルツ独首相は2022年2月、「時代の転換」(Zeitenwende)という表現を宣言し、軍事費を大幅に増額する方向に乗り出した。連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達などの計画が発表された。そして国防予算は国内総生産(GDP)比2%に増額する一方、軍事大国ロシアと対峙するウクライナに武器を供与してきた。

興味深い点は、ドイツでは平和政党と呼ばれてきた環境保護政党「緑の党」、国防分野では消極的だった社会民主党(SPD)が政権を担当しているショルツ連立政権がZeitenwendeを宣言していることだ。ドイツにとってこれが「吉」と出るか「凶」と出るかはここ暫く注視していかなければならないだろう。