自動車同士の交通事故で、一方が横転。ぶつけた側の保険会社担当者が、過失割合を「10対0」と認定し、いざ書面を交わそうとしたタイミングで、横転したクルマの積荷が高額であることがわかると、弁護士を挟んで再交渉。10割の負担を避けようとしているとして、SNS上で関心を集めている。保険会社側の対応を非難する声や、被害者側を応援する声であふれているが、一度認定した過失割合を保険会社がひっくり返すようなことは、よくあるのだろうか。弁護士に話を聞いた。
X上に10月17日、衝撃的な写真が投稿された。それは軽トラックが横転している様子が写されており、「ブツケられて横転しました。 やっと病院出れそうです 最悪だぁ~」とのつぶやきも添えられている。投稿主はバイクショップのオーナーで、当日納品予定だったバイクを載せていたが、それも壊れたという。
報告によると、事故の過失割合を「10対0」と認定していた保険会社の担当者が、急遽、前言撤回。弁護士を通して過失割合を見直すと通告してきたという。この報告を受け、SNS上は保険会社の対応を非難する声が続出。わずか数日の間にこの投稿は200万回以上表示されるほど拡散され、投稿主を応援するリプライも殺到している。
過失割合「10対0」を勝ち取るのは極めて困難
CBXは、本田技研工業(ホンダ)がかつて製造・販売していたシリーズで、現在は生産されていない。特に今回、事故にあったバイクは「CBX1000」とのことで、シリーズの元祖といえるタイプ。製造されていたのは1978~1982年と古く、状態の良い車両は少ない。投稿主によると、車体やカスタム費用等を合わせて100万円と超えるという。この金額を知って、保険会社が“払い渋り”をしたようだ。だが、一度は10割の過失を認定しながら、ひっくり返すという対応は、あまりにも不誠実すぎないか。自動車事故の保険交渉では、よくあることなのだろうか。山岸純法律事務所の山岸純弁護士に聞いた。
「事故の状況がわからないので何とも言えませんが、そもそも、事故の態様が10:0ではなかった可能性もあるのではないでしょうか。実は、これまで(初めて日本国内に自動車が走ってから)交通事故は数千万件起きているのですが、ひとつひとつ、過失割合を議論していたらきりがないので、これまでの裁判例をまとめて『この事故の態様だったら、だいたい何対何』という過失割合をまとめた資料があります。
我々、弁護士は、この資料を見て過失割合を考えるのですが、基本態様が10:0となるのは『停車時に後ろから衝突された場合』くらいで、そんなに例はありません。とすると、保険会社の人が、ぱっとみて『10:0』と言ったけど、後から資料を見てみたら(顧問弁護士に突っ込まれて)そうではなかったという可能性もあります」(山岸弁護士)
つまり、少しでも自動車が動いている限り、過失割合が「10対0」になることは、ほとんどないわけだ。では、仮に保険会社の担当者が「10対0として支払う」と認定した際の交渉を録画もしくは録音していたら、それを根拠として10割分の支払いを求めることは可能だろうか。
「その場で、(担当者が)『こう言っていた』は何の役にもたたないし、実は、会話を録音してもあまり有利にはなりません(日本ではありませんが、アメリカのある州では、“事故の現場で謝ってもそれは不利にならない”という法律があるくらいです)。大切なのは、過失割合を証明するための『事故時の録画』、これだけです。
10:0にするのは、なかなか難しいでしょう。そうであれば、弁護士に相談して休業損害などをしっかりと計算し、もともとの損害額を大きくするのが肝要です」(同)
今回のケースで、一度は保険会社が「10対0」を認めたとしても、実際に全額を支払ってもらうのは極めて困難との見通しだ。自動車とバイクの損害額に加え、治療費や慰謝料のほか、休業補償などを最大限計上し、少しでも多く補償してもらうしかないのかもしれない。なお、バイクファンから大人気の旧車で、高額なプレミア価値が付いていたとしても、保険会社は往々にしてプレミア価値を無視して車体価格を「0円」と算定することがよくある。交渉する際には、被害を受けた側も弁護士を立てることが不可欠といえるだろう。
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士)
提供元・Business Journal