「ネットの利用時間は減らすべき」という忠告は通信速度が向上し、スマホが浸透した現代社会ではよく耳にする話題です。

確かにSNSやネットゲームに熱中しすぎるあまり、心身の健康に支障をきたす場合も少なくありません。

特にSNSなどを通じて常時他人と自分を比較してしまう状況は、人の幸福度を低下させる要因とされています。

「インターネットやめろ」はもはや正当な意見として、研究者の多くも同意するところとなっています。

ところが最近、英オックスフォード大学(University of Oxford)により、この傾向に反する研究報告がなされました。

それによると、インターネットの利用が「幸福度の向上」と関連している証拠が見つかったのです。

研究の詳細は2024年5月13日付で学術誌『Technology, Mind and Behaviour』に掲載されています。

インターネット利用は「幸福度」を高めてくれる?

研究チームは今回、世界最大規模の世論調査である「ギャラップ・ワールド・ポール(Gallup World Poll)」を利用し、インターネット利用日常生活の幸福度の関係性を改めて調べてみました。

この調査では、168カ国から約240万人を対象としたインタビューを行っています。

対象者の年齢は15〜99歳と幅広く、データは2006年から2021年にかけて収集されました。

調査では、対象者のインターネットの日常的な利用頻度を調べた上で、私生活や社会生活での満足度を含む8つの指標から「ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的な幸福度)」の高さとの関連性を分析。

また統計モデルを利用して、学歴や所得、喫煙、運動習慣、交際状況など、ウェルビーイングに影響を及ぼす可能性のある他の因子を調節しています。

インターネット利用は「幸福度」を高めるのか?
インターネット利用は「幸福度」を高めるのか? / Credit: canva

そしてデータ分析の結果、インターネット利用と幸福度の間にはポジティブな正の関係が見られる割合が高いことが判明しました。

スマホやパソコンを含むインターネット利用とウェルビーイングの高さとの関連性を見ると、その84.9%は正の関係、つまりインターネット利用が幸福度の向上につながることが示唆されていたのです。

反対に、インターネット利用が幸福度の低下につながる割合は14.7%でした。

またインターネットを積極的に利用する人は、インターネットをほとんど使わないか、まったく使わない人に比べて、生活満足度が8.5%高いと報告されています。

この結果はインターネットの利用が従来言われてきた忠告に反し、ポジティブな影響を与える可能性の方が高いことを示すものです。

研究主任のアンドリュー・プシビルスキー(Andrew Przybylski)氏は「私たちの研究は、インターネットの定期的な利用がウェルビーイングの向上に関連していることを世界規模で確かめた最初の成果です」と話しました。

インターネットの積極的な利用が幸福度につながる可能性
インターネットの積極的な利用が幸福度につながる可能性 / Credit: canva

その一方で、専門家らはこの結果を受けて「インターネット利用のすべてが健康に寄与すると理解するべきでない」と注意を促しています。

英ウォーリック大学(University of Warwick)で経営情報システムを専門とするシュウェタ・シン(Shweta Singh)氏は「完全に無害で安全なインターネットやソーシャルメディアというのは存在しない」と指摘。

「私も今回の研究結果に同意したいですし、全体としてそれが真実であることを心から願っていますが、残念ながら、インターネット利用が害悪になることを示す証拠も数多くある」と続けます。

要するに、ここで大切なのは巷でよく言われる「ネットの使いすぎNG」をそのまま鵜呑みにして、スマホやパソコンから極端に身を置くのではなく、バランス感覚を持ってインターネットと付き合うということでしょう。

インターネット利用はこれまで有害な側面ばかり注目されてきましたが、今回のように、幸福度に有益な作用をもたらすことも大いにあります。

日頃のネットの使いすぎを懸念している方々は、ネット空間ときっぱり縁を切るのではなく、程よいバランスでネット利用を続けることで、満足度の高い生活が送れるかもしれません。

参考文献

Internet use statistically associated with higher wellbeing, finds new global Oxford study

Internet use is associated with greater wellbeing, global study finds

元論文

A Multiverse Analysis of the Associations Between Internet Use and Well-Being

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部