たった1回の注射で生涯に渡り老化細胞を攻撃できる

T細胞を操作して「若さの泉」とすることに成功!
T細胞を操作して「若さの泉」とすることに成功! / Credit:Corina Amor . Prophylactic and long-lasting efficacy of senolytic CAR T cells against age-related metabolic dysfunction . Nature Aging (2024)

uPARタンパク質は上の図が示すように、老化細胞の表面に数多く存在していることが知られています。

そこで研究者たちはuPARタンパク質を表面に沢山持つ老化細胞を攻撃するようにT細胞を再プログラムしました。

細胞分裂を停止した老化細胞を排除していけば、残るのは新鮮な若い細胞のみになるという考えです。

結果、改造T細胞を投与された老マウスは体重が減り、身体活動が増し、さらに代謝と耐糖性能が改善されていることが判明します。

また若いマウスに投与した場合、老化の進行を妨げる効果があることが判明しました。

上の図は青い部分が老化細胞となっています。

子供のときに改造T細胞を投与された老マウスの膵臓サンプルでは青色の部分が少なく、膵臓が若々しい状態であることを示しています。

研究者たちは「改造T細胞を高齢のマウスに与えると若返り、若いマウスに与えると、老化が遅くなることがわかりました。現時点で同じことができる治療法は他にありません」と述べています。

T細胞を操作して「若さの泉」とすることに成功!
T細胞を操作して「若さの泉」とすることに成功! / Credit:Corina Amor . Prophylactic and long-lasting efficacy of senolytic CAR T cells against age-related metabolic dysfunction . Nature Aging (2024)

また若いマウスに予防的に改造T細胞を投与すると、老年期の代謝低下が制限されることも判明しました。

具体的には、改造T細胞で治療したマウスは、空腹時血糖値が有意に低下し、耐糖能が改善され、グルコース刺激性インスリン分泌によって評価した場合、膵臓ベータ細​​胞機能が強化されました。

身体能力の点では、若い頃に改造 T細胞で治療されたマウスは、対照治療マウスと比較して、生後9カ月でより高い運動能力を示しました。

また高脂肪食を食べさせてメタボリックシンドロームにさせたマウスに対して改造T細胞を注射したところ20日後には体重が大幅に減少し、空腹時血糖値が改善し、耐糖能とインスリン耐性の両方が改善されました。

総合すると、これらの結果は、改造T細胞胞が年齢依存性の代謝低下を治療できるだけでなく予防できることを示しています。

生活習慣病や身体能力の低下は老化症状の一種であるため、若返ることで逆転させることが可能なのです。

しかしこの驚くべき治療の優れた点は、持続力にあります。

薬などに用いられる化学薬品は体にとって異物であるため、絶えず排出されてしまいますが、T細胞には「生きた薬」として体内に非常に長期間存続する能力があります。

そのため研究者たちは「若いときに改造T細胞を1度注射するだけで、生涯に渡って老化防止の利点を得られる可能性がある」と述べています。

この研究は、古代からの夢であった永遠の若さを求める人類の探求に、新たな希望をもたらしています。

未来において、この治療法が人間の患者にも適用されれば、人類は長い間探し求めてきた「若返りの泉」をついに発見することになるかもしれません。

その日が来れば、医学の歴史における最も重要な進歩の一つとして記憶されることでしょう。

研究者たちは今後、改造T細胞が若さだけでなく寿命そのものも延長できるかどうかを確かめていくと述べています。

不老に加えて不死も成り立つ日は、思ったより遠くなさそうです。

参考文献

The fountain of youth is … a T cell?

元論文

Prophylactic and long-lasting efficacy of senolytic CAR T cells against age-related metabolic dysfunction

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。