パレスチナ自治区ガザを実効支配してきたイスラム過激テロ組織ハマスが昨年10月7日、イスラエルを奇襲襲撃し、キブツなどで1200人余りのイスラエル人を殺害したテロ事件に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員の少なくとも12人が直接関与していたことが判明、UNRWAに支援金を拠出してきた米国、ドイツ、日本などが次々と支援金を一時停止した。
国連グテーレス事務総長は支援金提供国に対して、「パレスチナ人の人道支援が途絶えれば、多くの犠牲が出てくる」として支援金停止撤回を求めている。UNRWAによると、欧米諸国からの支援金が途絶えた場合、2月末までに人道支援活動は停止に追い込まれてしまうという。
UNRWAはガザ区に約1万3000人の職員を抱えているが、その大部分がパレスチナ人だ。そしてパレスチナ人職員の10%以上がハマスやイスラム聖戦と関係がある。イスラエルのネタニヤフ首相は「ガザ戦争が終われば、UNRWAは解体だ」という。
UNRWAは1948年のイスラエル建国とその後の第1次アラブ・イスラエル戦争により難民として登録されたパレスチナ人とその子孫を支援してきた。国連の統計によると、ガザ地区の住民240万人のうち約170万人が難民として登録されている。彼らの多くは難民キャンプで暮らしている。
ところで、イスラエル側のUNRWA解体論にはそれなりの理由はある。ハマスはガザ区でパレスチナ人に対して食糧や医療の提供のほか、学校教育まで支援してきたが、ガザ区の学校教育ではイスラム教徒のテロは美化され、イスラエルを悪者にする憎悪に満ちたコンテンツをカリキュラムとしている。すなわち、米国やドイツ、日本からの支援金でガザ区でテロ組織ハマスの予備軍が育てられているわけだ。UNRWAの職員がハマスのテロ奇襲に関与していたことが判明し、イスラエル側のUNRWA解体要求はもはや譲歩の余地がないわけだ。
一方、国連側や人権擁護団体はUNRWAの職員がテロに関与していたという事実より、困窮下にあるパレスチナ人に食糧や医療品などを支援してきたUNRWAの職員がいなくなれば、パレスチナ人は生存できなくなるといった危機感のほうが強い。眼前で苦しむパレスチナ人の姿、負傷して苦しむ子供たちの姿を目撃すれば、欧米のメディアを含む多くの人権団体がイスラエル軍の軍事活動に対して批判的になるのは理解できる。
中東専門家のベンテ・シェラー氏はオーストリア国営放送とのインタビューの中で、「UNRWA以外に現時点で迅速に救援活動ができる組織はない。特にイスラエル軍との戦闘の最中ではなおさらだ。戦前でさえ、ガザの人口の大部分は援助団体からの物資に依存してきた」という。また、UNRWAへの支援金が途絶えれば、ヨルダンやレバノンの不安定化をもたらす危険が出てくると警告する。