iPS細胞から結石を溶かすマクロファージを作成!

同チームは2008年に、マウスを用いた研究で「尿路結石が自然に消える現象」を世界に先駆けて確認しました。

そして、この現象の正体がマクロファージによる結石の溶解であることを明らかにしたのです。

マクロファージは白血球に分類される免疫細胞のひとつで、体内に病原菌やウイルスなどの異物が侵入すると、それらを見つけて食べる働きをします。

またマクロファージには、主に病原体や寄生虫の感染予防に働く「M1型」と、体内の組織修復にかかわる「M2型」とがありますが、チームは続く研究で、M2型マクロファージが結石の予防に有効であることを発見しました。

しかし、これはあくまでマウスの話であり、人間でも同様であるかは、人間のマクロファージを用いて確認しなければなりません。

ただ、ここで問題となるのがヒトの血液から得られるマクロファージ数には限界があり、大規模な創薬研究ができないことです。

そこでチームは今回、ヒト由来の「iPS細胞」を使ってマクロファージを人工的に培養することにしました。

iPS細胞とは?

iPS細胞とは、2006年に新たに作製された人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS)の略称です。

具体的には、ヒトの皮膚や血液から採取した体細胞に、ごく少数の多能性誘導因子を組み込んで培養することで、iPS細胞が得られます(下図を参照)。

こうしてできたiPS細胞は、人体のさまざまな組織や臓器の細胞に分化できる能力ほぼ無限に増殖できる能力を持つスーパー細胞となります。

iPS細胞ができるまで
iPS細胞ができるまで / Credit: 京都大学 iPS細胞研究所より

チームは今回、ヒトの血液細胞から生成されたiPS細胞を使って、マクロファージを人工的に作り出し、さらにこれらをM1型とM2型に分化させました。

実験では、尿路結石の成分に対し、ヒト由来のマクロファージがどのような働きをするかを観察。

その結果、2008年のマウス研究で見られたのと同じように、マクロファージが結石を溶かす現象が確認できたのです。

特にM2型マクロファージは周囲の結晶をどんどん溶かし、M1型マクロファージの最大で5.6倍の溶解率を達成しました。

M1型とM2型のマクロファージが周囲の結晶を溶かす様子
M1型とM2型のマクロファージが周囲の結晶を溶かす様子 / Credit: 名古屋市立大学 – iPS細胞から結石を溶かすマクロファージの作成に成功(2024)

この結果は、ヒト由来のiPS細胞から培養されたマクロファージが尿路結石を溶かす能力を持つことを世界で初めて示した成果です。

これは尿路結石の新たな予防法や治療法を開発する上で、極めて重要な発見となります。

こちらはM2型マクロファージが周りの結晶を溶かしていく様子。

iPS細胞を使ったアプローチであれば、ヒトから直接マクロファージを得るのではなく、無制限にマクロファージを生産することができます。

この成果を元に尿路結石の新たな治療法が開発されれば、再発を未然に防ぐだけでなく、従来のような「自然に出るのを待つ」という治療方法も改善されるかもしれません。

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参考文献

iPS細胞から結石を溶かすマクロファージの作成に成功-尿路結石溶解療法の開発に向けて-

元論文

Phagocytosis model of calcium oxalate monohydrate crystals generated using human induced pluripotent stem cell-derived macrophages

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。