だがこうした民主党側のトランプ氏への嫌悪に全く同意しない国民も多いという現実がアイオワ州で立証されたわけだ。勿論、民主党側のこの嫌悪や憎悪が消えるわけではないが、この時点でのトランプ人気の高まりは民主党側の嫌悪に同意する層が減ってきたと言えるかも知れない。その真実を示すのがこれからの各州での予備選の投票であり、究極は11月5日の最終投票である。
この種のトランプ氏への嫌悪は最近は恐怖症へと変質したとも言える。主要メディアはトランプ氏がもし大統領に再選されれば、独裁、報復など非民主的な統治になる、という「予測」を流し始めたからだ。その原因となったトランプ氏の草の根での人気の高まりはアイオア州で証明されたと言える。
そうした「恐怖」宣伝の具体例は「トランプ大統領はNATOから離脱する」という警告である。この警告もニューヨーク・タイムズや同じ陣営のNPR(全米公共放送)が報じた。だがその内容はトランプ氏がかつてNATOの西欧側のドイツなどがオバマ政権時代からの「防衛費は最低GDP(国内総生産)の2%とする」との公約を守らないことへの非難の範囲での非公式発言の捻じ曲げ引用だった。欧州側がどうしても公約負担の増加に応じないならば、アメリカは有事に欧州を守らないこともある、という警告を文脈を無視して切り取り、「アメリカのNATO離脱」という骨子へと仕立てていた。
だが現実にはトランプ氏はその任期の4年間、NATOとの絆を堅持した。2017年から毎年発表した国家安全保障戦略でNATO堅持を一貫して明記した。それどころかトランプ政権は2018年までにはNATO加盟国のバルト3国の対ロシア抑止力強化策として「増強前方展開」の4戦闘集団の新派遣に参加した。NATOからの離脱ではなく、NATOの強化の実効策を採っていたのだ。
日本側としてもこの種の民主党傾斜メディアの歪め報道には十二分に注意すべきである。日本の主要メディアやアメリカ通とされる識者の多くがこの「トランプ次期大統領NATO離脱説」を事実であるかのように伝え始めたのだ。同盟国アメリカの政治の行方は日本の国のあり方をも左右する。その実際の展開にはあくまで客観的かつ複眼的な考察により、現実を正確に掴んでおくことが欠かせないのだ。日本もこの自明な認識をアイオア州での投票の始まりを機に明記しておくべきだろう。
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古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2024年1月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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