トランプ氏の再選でウクライナは終わる?

ロシアの侵攻に抗い、領土奪還を目指すウクライナを支持する人たちからのドナルド・トランプ前大統領の評価は芳しくない。

トランプ氏はこれまで支持者集会などで、自身が再選した暁には米国からウクライナへの支援を停止し、ウクライナ戦争を「24時間以内」に終結させると発言している。前者の発言については明示的に、後者に至っては暗にロシアによるウクライナ領土の割譲、または征服を「奨励」しているとして、一部の識者から批判を浴びている。

確かに、トランプ氏のウクライナをめぐる発言を真に受けた場合、トランプ氏の再選はウクライナの支援者にとっては絶望的な結果になる。ウクライナにとって米国からの支援は命綱であり、その支援無くして人口3倍近くあるロシアと2年以上にわたり戦闘を継続させることは困難であっただろう。そのため、親ウクライナの人々にとってトランプ氏が大統領権力を駆使して、ウクライナ支援を停止するのは由々しき事態である。

しかし、フロリダ州選出の上院議員のマルコ・ルビオ氏が指摘したように、トランプ氏の支持者向けの発言と実際の政策は分けて考えるべきである。実際のところ、現在のトランプ氏は支援停止を示唆し「反ウクライナ」的な発言をしているものの、第一次トランプ政権は米国史上最も「親ウクライナ」政権の評価を受けて然るべき政策を推進していたという「矛盾」が存在する。

トランプ氏(同氏SNSより)とゼレンスキー大統領(ウクライナ大統領府HPより)

ウクライナの「自殺的なナショナリズム」を批判したジョージ・H・W・ブッシュ大統領

トランプ政権のウクライナ政策に触れる前に、トランプ以前のアメリカ大統領がどのようにウクライナと向き合っていたのかを振り返る。今ではウクライナの「自由」と「独立」を守るために全力で支援しているアメリカだが、そう遠くない昔は、180度違う見解を示していた。

1989年に冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊して以降、ソ連の支配下で事実上の隷属状態にあった東ヨーロッパに民主化の波が一挙に押し寄せた。その波に乗ろうとした国の中にウクライナも含まれていた。だが、当時のジョージ・H・W・ブッシュ政権は改革路線を推し進めるソ連のゴルバチョフへの配慮から、ソ連から離脱し、一刻も早い独立を要求するウクライナを批判する演説を行った。下記がその演説の抜粋である。

しかし、自由は独立とは違う。アメリカ人は、遠く離れた専制政治を現地の専制政治に置き換えるために独立を求める人々を支持しない。民族的憎悪に基づく自殺的なナショナリズムを推進する人々を支援することもない。

ウクライナ議会で飛び出したウクライナの「自殺的なナショナリズム」を批判するブッシュの演説は国内外で不評を買った。

ニクソン政権でスピーチライターを務め、当時ニューヨーク・タイムズでコラムニストとして筆を振るっていたウィリアム・サファイア氏は同演説を「キッチンキエフ演説」だとこき下ろし、ウクライナ人の民族自決を支持しないブッシュ大統領を臆病者(チキン)だと批判した。

しかし、さすがの超大国アメリカも自由を渇望する人々の衝動を抑えることは出来ず、ウクライナは1991年に独立国家となる。