これは健康なヒトとマウスでは見られませんでした。

そしてマウスにおける脳活動を調べたところ、うつ状態にある個体がネガティブ・バイアスを示すときは、匂い刺激に対してネガティブな感情体験と関連する扁桃体の回路がより強く活性化し、反対にポジティブな感情体験と関連する扁桃体回路はほとんど反応しないことが判明したのです。

うつ状態における偏桃体の基底外側部(BLA)の神経回路の変化を示したマウスの神経反応。図Hは「ポジティブな感情の処理」に関与する脳の領域、図Iは主に「ネガティブな感情刺激」の処理に関与する領域を示す。ポジティブな反応は減少し、ネガティブには過剰反応している。
うつ状態における偏桃体の基底外側部(BLA)の神経回路の変化を示したマウスの神経反応。図Hは「ポジティブな感情の処理」に関与する脳の領域、図Iは主に「ネガティブな感情刺激」の処理に関与する領域を示す。ポジティブな反応は減少し、ネガティブには過剰反応している。 / Credits:Mathilde Bigot et al.,Translational Psychiatry(2024)

わかりやすく言えば、うつ病マウスでは、ポジティブ感情を引き起こすスイッチがほとんどOFF状態になっており、ネガティブ感情を引き起こすスイッチが簡単にONになっていたのです。

この結果は、うつ患者があらゆる刺激を悲観的に捉えてしまう要因となっていることを示唆します。

その一方でチームは、うつ病マウスに抗うつ薬の「フルオキセチン」を投与すると、快および中性の匂い刺激にも脳が反応し始め、ネガティブ・バイアスが有意に減少することを発見しました。

まだヒトで確認していないものの、うつ患者にポジティブ感情を誘発して、うつ症状を効果的に緩和するための新たな治療法を開発する上で重要なヒントになるかもしれません。

これと別にチームは「今回の研究は匂い刺激のみを対象としているため、他の光や音といった刺激にも同じ脳回路が反応するかどうかを調べたい」と話しました。

うつ病患者は世界的に増加傾向にありますが、それと同時に、うつ病発症のメカニズムの解明が進むことで、効果的な治療法も見つかると期待されています。

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