米国大統領選によっては、日本が前面に立った防衛の可能性も
今回のウクライナ支援の際にも、2022年5月10日に「2022年ウクライナ民主主義防衛・レンドリース法」(Ukraine Democracy Defense Lend-Lease Act of 2022)が成立している。
ロシアのウクライナ侵攻が開始された当初、米国の防衛産業は、兵器生産の増強に懐疑的で、「戦争は短期で決着するのではないか」と思っていたようだ。だが、厖大な予算が消費された現在は、米国と同盟国がロシアと中国からの一段と攻撃的な行動を想定して高額の兵器類や軍需品の調達を増やすと考えている。
だが、2024年11月5日の米国大統領選の結果、ロシアとの密接な関係が疑われるトランプ前大統領が再度大統領となれば、本格的にウクライナ支援を途絶させる可能性も否定できない。もしもウクライナが敗北するようなことがあれば、次にロシアが攻撃するのは欧州か日本しかない。
一方、日本政府は、2023年度予算案で、米国の武器輸出制度「有償軍事援助」(FMS)に基づく武器購入に過去最大の1兆4,768億円を充てた
。F35A戦闘機の取得に約1,069億円、空母搭載用のF35B戦闘機の取得に約1,435億円、F15戦闘機の能力向上に約1,135億円、E2D早期警戒機の取得に約1,941億円、トマホークの配備に約2,113億円、イージス艦にトマホークを搭載する関連器材の取得等に約1,104億円を計上した。日本政府の防衛予算は、2023年度から5年間で総額43兆円としている。これほどの予算額となったのは戦後初のことだ。
また日本政府は、ライセンス生産の防衛装備品について、特許を持つ国への輸出を全面解禁したが、輸出先から第三国への移転は条件付きで容認されるに留まっている。早期に実質的な対外武器輸出を解禁して防衛産業を復興させなければ、防衛力の増強には結びつかない。日米が中心になって取り組んできたインド・太平洋構想の取り組みを画餅に帰してはいけないのだ。
【参考】 日経新聞 2023年10月21日付 REUTERS 2023年12月19日付 その他
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藤谷 昌敏 1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2024年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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