7日に投開票が行われた東京都知事選で現職の小池百合子氏が3選を決めた。これを受けX(旧Twitter)上では「水道民営化」がトレンド入りするなど、東京都の水道民営化の検討が進むのではないかという見方も広がっている。その可能性はあるのか、追ってみたい。

 水道民営化法案と呼ばれた水道法改正案が成立したのは2018年12月。これにより、自治体は民間に運営権を委ねる「コンセッション方式」を導入する場合に自治体が水道事業の休止の許可を国から受ける必要がなくなり、民間企業が容易に水道事業の運営をできるようになった。法改正の背景には、全国的に水道設備の老朽化や人口減少による水需要の減少、水道料金収入の減少が問題化している点がある。法改正の目的は「水道の基盤強化」であり、民間企業のノウハウを活かして効率的な運営を実現し、かつ自治体が負担するコストを削減する狙いがあるとされる。

「民営化は水の供給を営利事業にするということです。営利企業が利益を増やそうと思えば、利用料金は安いより高くしたほうが利益は上がります。水質を維持するには、こまめに設備更新をしなければなりませんが、利益を上げようとすれば、多少水質が悪くなっても経費を削ろうとすることが、外国では起きています」(八王子合同法律事務所の尾林芳匡弁護士/22年12月30日付当サイト記事より)

 民営化が進む海外では住民にデメリットがおよぶ事態が相次いでいる。たとえば、イギリスは1989年に水道局を完全民営化したが、水道料金は上がり続ける一方、水道サービスの質は大幅に低下した。ロンドンでは道路の真下を通っている水道管路の漏水が年間平均6000件も報告されていた。ちなみに東京都は年間約200件ほど。英国グリニッジ大学・公共サービス国際研究所(PSIRU)のデータによると、2000年から2015年の間に、少なくとも37カ国235都市が、一度民営化した水道事業を再び公営に戻している。

 すでに日本でもコンセッション方式を導入する自治体は出ている。22年4月、宮城県は上水道・下水道・工業用水道の水道事業の運営権を、水処理大手メタウォーターなど計10社が出資した特別目的会社「みずむすびマネジメントみやぎ」に売却。同社は県の水道事業を20年間にわたって運営する。

水道の停止件数が増加

 今回の都知事選で小池知事は水道民営化を公約には掲げていないが、17年には小池知事が本部長を務める都政改革本部で水道施設の運営権のコンセッションを検討課題とすることを決め、「コンセッションを真剣に考えてほしい」と発言するなど前向きな姿勢だとみられている。

 都は水道事業運営の効率化とコスト削減に積極的に取り組んでいる。2020年には都の水道事業を担う2つの外郭団体を合併させ東京水道を発足。社長には小池知事の元特別秘書、野田数氏を充てた。22年度には東京都水道局は、東京23区の料金滞納者への催告の方法を訪問から郵送での催告に変更。24年6月25日付「東京新聞」記事によれば、これにより年間の委託費7億円は削減され、水道の停止件数は21年度の10万5000件から、22年度は18万件に増加したという。

「今の小池知事の頭の中には水道民営化というフレーズはないのではないか。これから(任期の)4年間は公約に掲げている無痛分娩への助成、第1子の保育料無償化、子育て世帯への家賃負担軽減など子育て世帯支援・教育の政策に注力するだろう。今では水道民営化はどちらかというと世論からの反発を招きやすく、都の財政基盤強化などより世論受けする施策を重視する小池知事があえてそこに手を突っ込むとは考えにくい。小池知事は4年後、75歳であり、次の選挙にも出馬して4期まで務めることに意欲的だといわれており、なおさら都民からの反対が予想される政策は推進しないだろう」(全国紙記者)

(文=Business Journal編集部)

提供元・Business Journal

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