22歳のクルド系イラン人のマーサー・アミニさん(Mahsa Amini)が昨年9月、イスラムの教えに基づいて正しくヒジャブを着用していなかったという理由で風紀警察に拘束され、刑務所で尋問を受けた後、意識不明に陥り、病院で死去したことが報じられると、イラン全土で女性の権利などを要求した抗議デモが広がっていった。その時、ハメネイ師は、「わが国を混乱させている抗議デモの背後には、米国、イスラエル、そして海外居住の反体制派イラン人が暗躍している」と主張し、反論するのが常だった。そのイランが多くの死傷者を出したテロで米国やイスラエルの名前を出して批判していないのだ。今回のテロには両国が関係していないからだ(「イラン『アミ二さん一周忌』を迎えて」2023年9月16日参考)。

米国側が示唆する「IS説」が正しいとすれば、イランにとって少々厄介だ。ISはスンニ派のイスラム過激派テロ組織だ。そしてイランはシーア派の盟主だ。そのISがイラン国内でイランの英雄ソレイマニ司令官の命日にテロを行ったということになる。換言すれば、イスラム教のスンニ派とシーア派の宗派間争いという構図が浮かび上がってくるからだ。

イランはスンニ派の盟主サウジアラビアと接近している時だけに、スンニ派過激派テロ組織ISのテロが事実とすれば、イランにとってタイミングが悪い。イスラエルのガザ戦争ではハマスを支援するイランはイスラエルの報復攻撃を人道的犯罪だと糾弾し、アラブ・イスラム教国を結束させて反イスラエル包囲網を構築している時だ。イスラム教国の結束を壊す宗派間の対立劇はそれゆえに歓迎されないのだ(「サウジとイランが接近する時」2021年4月29日参考)。

その推測を裏付けるように、IRNA通信は4日、「北ホラーサーン州のスンニ派聖職者らは声明を発表し、イランの治安当局と司法機関に対し爆発実行犯に対して厳しく対処するよう求めた」、「イランの著名なスンニ派指導者であり、ザヘダーンにあるスンニ派マッキ・モスクの金曜礼拝指導者のモラヴィ・アブドゥル・ハミド師も、このテロ攻撃を衝撃的だと述べ、このテロ攻撃を強く非難した」と、スンニ派聖職者の声をわざわざ掲載している。

※編集部注:追悼式典での爆発はIS(イスラム国)がじぶんたちの犯行だとする声明を出しています。

テロの現場 (1月4日IRNA通信公式サイドから 編集部)

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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