もちろん、本音を吐く政治家はエルドアン氏だけではない。ウクライナのゼレンスキー大統領も今月19日の記者機会見でロシアのプーチン大統領を「病人だ」と吐き出すように語っている。プーチン氏は数多くの戦争犯罪を行ってきた政治家だ。ウクライナ大統領としては受け入れがたい人物だが、「彼は病人だ」という発言はやはりきつい。一般的に見れば、プーチン氏は正常な思考の持ち主ではないことは間違いない。
独自の歴史観、世界観を有し、ウクライナをロシア領土と理解している。そして非武装化、非ネオナチ化を掲げてウクライナに侵攻していったわけだが、それをゼレンスキー氏は「プーチン氏は精神的な病にある」と診断したわけだ。理想的には、多くのメディアが書いているように「プーチン氏は自身のナラティブ(物語)に酔いしれている政治家」という表現に留めておくべきだった。相手を病人扱いにすることはその人間の尊厳を傷つけることになる。そのうえ、自身を酷評する相手と同レベルにおいて反論することになるから賢明ではない。
バイデン米大統領は失言と危言を吐く政治家で有名だ。今年11月15日、中国の習近平国家主席との会談後の記者会談で習近平氏を「独裁者だ」との人物評を追認している。バイデン氏から「独裁者」呼ばわりされた習近平主席としては気分が悪いに違いない。中国外務省は即抗議している。ただ、バイデン氏は「中国は我々の政治形態とは全く異なる共産主義国だ。その国を治めている指導者・習近平氏はやはり独裁者だ」と説明している。バイデン氏らしくない(?)冷静な説明だ。
政治家が記者会見や私的な場所で本音を語れば、その影響は内容の是非は別として大きな反響が出てくる。インターネット時代に生きる今日、発言内容は本人の意向とは全く別に解釈されて拡散する危険性もある。
2024年は台湾総統選、ロシア大統領選、欧州議会選、自民党総裁選、米大統領選など重要な選挙日程が続く。それだけに、世界は政治家の発言に注目する、その時、政治家が「本音」を語れば、大きな波紋が出てくる事態も予想される。政治の世界では「本音」は「嘘」より危険だからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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