2013年、医学メディア「MEDizzy」に“巨頭の赤ん坊”の画像が投稿された。この画像は、インド西部のグジャラート州ラージコートにあるアーシュトシュ産科外科病院で撮影されたという。先天性疾患の「アザラシ肢症」の赤ん坊であるため、手足が極端に短く、頭が大きく見えるのだ。

 母親は結婚生活3年目の25歳女性で、妊娠7カ月目に激しい腰痛を訴えた。超音波検査の結果、胎児の周囲で体液が増加していることが判明。腹部と子宮から約2~2.5リットルの体液を排出し、膣から胎児が産み落とされた。母親はガムタバコを1日に2~3回噛む習慣があり、父親は3歳のときから1日に2~3本のタバコを吸っていたという。

 多くの場合、アザラシ肢症は妊娠初期に生じた問題によって引き起こされる。受精後24~36日以内に胎児は四肢を発達させ始めるが、このプロセスが中断されると、細胞が分裂できず、正常な成長が妨げられる。

 アザラシ肢症は8番染色体の異常が関連している可能性がある。家族から遺伝的に受け継がれる、もしくは自然発生的に遺伝子の欠損が生じるなどの説があるが、その真偽については解明されていない。

 一方、サリドマイドの薬害は有名である。サリドマイドは1957年から約5年間、つわりや妊娠中の吐き気などのさまざまな症状の治療薬として広く使用された。当時は安全で副作用がないと考えられていた。しかし、妊娠初期のサリドマイド使用によって先天性欠損症が引き起こされることが判明し、中でもアザラシ肢症の発症率が高かった。サリドマイドは1961年に妊婦の使用が禁止されたが、サリドマイドが原因で先天奇形を発症した赤ん坊は1962年まで生まれ続け、その数は世界中で1万人以上にもなった。

 その後、1968~2006年の間に登録された合計141のアザラシ肢症の症例から、10万人の出生あたり0.62人の有病率が示されている。3つの地域(オーストラリア、南アメリカ、イタリア北東)では、有病率の推定値が大幅に異なっていた。症例の過半数である53.2%はアザラシ肢症のみを発症していたが、9.9%は症候群だった。筋骨格や心臓、腸の欠損がみられる症例もあった。疫学的な調査結果から、発症原因に違いがある可能性が指摘されている。

 アザラシ肢症の発症原因が明らかになる日は近いのかもしれない。 (文=標葉実則)

※無修正の画像はAshutosh Maternity & Surgical Hospitalにてご覧いただけます。

参考:「Ashutosh Maternity & Surgical Hospital」ほか

提供元・TOCANA

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